通訳案内士試験(通訳ガイド試験)「中国語」

このページでは、通訳案内士試験の中国語について、一次試験と二次試験の試験内容、一次試験の免除基準、試験の日程、勉強方法などを説明しています。

通訳案内士試験(通訳ガイド試験)とは

通訳ガイドのための国家資格

通訳案内士試験とはあまり聞き慣れない名前かもしれません。外国人観光客が日本観光する場合、外国語で日本の観光地について説明するガイドさんがつくことがありますが、あのガイドさんがお金を取って案内する場合国家資格が必要でした。その国家資格を取るための試験です。

通訳案内士試験(中国語)は超難関

この試験は英語、中国語、など全10か国語を対象としているのですが、合格率は各国語平均が20%、中国語にいたっては10%前後という難関で、この難易度の高さが中国語の資格試験としての存在価値を持っているのです。しかもこれは国家試験であり、合格すれば国家資格取得、さらにこの資格があれば通訳案内業という職業にも結び付きます。かつては光り輝く黄金の資格試験でした。

ガイド業に国家資格は要らなくなる!

過去形で説明しているのは平成29年度中に法改正が予想されているからです。この法改正によればこの資格なしで通訳案内業ができるようになります。つまり通訳案内業、つまり外国人向けのガイドさんになりたければ別にこの試験向けの勉強しなくてもなれる、ということです。

通訳案内士試験は無意味か?

それではここで通訳案内士試験について書く必要などないではないか、ということになります。ただ今の訪日旅行大ブームを見てください。10年前の2007年訪日外国人は800万、去年2千万人を突破し、今年2017年は去年をさらに上回る勢い、2020年のオリンピックの年に日本政府は訪日外国人4千万人と見込んでいるのです!この大変の数のうちかなりの部分を占めるのはおそらく中国・台湾・香港からの観光客です。中国語ガイドの需要は高まりこそすれ、なくなることはないでしょう。

通訳案内士国家資格は存続

そして通訳案内士という国家資格は今後も残る方向です。ということはこの業界において、国家資格保持者・地域限定通訳案内士資格保持者・無資格ガイドの三者が関わることになります。旅行業者がガイドを探す場合、とりあえず資格を持っている人を探す、または優遇するというのは大いにありうることではないでしょうか?ちなみに上に書いた地域限定通訳案内士というのは沖縄など特定の地域に限ってガイドが許される資格で、通訳案内士試験に比べればずっと易しい試験で獲得できる資格です。

中国人に嫌われる無資格ガイド

上記した無資格ガイドはすべて中国人で、日本の観光地や文化などについてはほとんど勉強しておらず、ツアーバスの中でひたすらお土産を売ったり、観光客をぼったくりのお店に強引に連れていったりしてそのリベートで稼いでいます。格安ツアーで日本に来た中国人観光客の間でこの無資格ガイドの評判は極めて悪く「中国人を酷い目に合わせるのは中国人」「日本に行ったら中国人には近づくな」とまで言われています。

希少価値が出てきた日本人ガイド

ここでようやく脚光を浴びそうになっているのが日本人ガイドです。これまで資格を持っている日本人ガイドは「中国語のお勉強はしたらしいけど実戦では使いものにならない」と陰口をたたかれがちでした。だいたい自腹を切って観光をする中国人が日本にやってくるようなったのが10数年前です。それまで日本政府は中国の民間人に観光ビザは出しませんでした。不法就労を恐れたのです。それが21世紀に入ろうという頃からお金持ちが現れ、あれよあれよと言う間にその数が増え、中国人観光客と言えばお金を豪快に使ってくれる上客になったのでした。上客は上客でもツアーでやってくる観光客は、日本人旅行者のようにおとなしくはありません。エネルギーあふれる大勢の中国人を平然と束ねることができ、しかも楽しませることもできる日本人ガイドはおそらくほとんどいなかったでしょう。ここは中国人ガイドの独壇場でした。ところがです。上記したような問題が起きてきました。そこで中国語やガイディングは少々下手でも誠実な日本人がいい、という声が起きてきたのです。

中国語好き、旅好きなら

どうです? この資格が残されるなら取っておいてもいいかもと思いませんか? もし中国語が好きで旅も好きなら、この資格を取っておけばどこかで生かすことができるかもしれません。

中国語筆記問題はHSK6級を持っていれば免除

しかもです。大変な難関だった中国語試験がとても易しくなったのです。というか、試験そのものは相変わらず難しいのですが、他の試験で代替できるようになりました。HSK6級で180点以上取れば、この試験の中国語筆記試験が免除になります。HSK6級合格とガイド試験中国語筆記問題とではかなりの差があります。要するにHSKの方がはるかに易しいのです。しかも通訳案内士試験の中国語筆記試験はどういう範囲で出るか予想がつきません。以前は中国語検定試験の準1級レベルでしたが、最近は1級レベルになってしまいました。HSK6級で試験免除になるのに、何年もかけてこの試験の中国語筆記問題にチャレンジする人はよほどの物好きでしょう。このような難しい試験に何年取り組んでも、ガイディング用中国語の上達は望めません。むしろHSK6級試験の勉強で語彙を増やし耳を鍛えてこの試験はスルーし、2次試験の通訳問題やプレゼン問題に取り組んだ方が仕事にも役に立ちます。

通訳案内士試験の具体的な日程など

試験は一年に一度

通訳案内士試験の一次試験は一年に一度8月に行われます。一次試験は免除科目がなければ4科目あります。中国語の試験であるならば、中国語、地理、歴史、一般常識です。この4科目すべて合格すれ二次試験が12月にあります。この試験では通訳問題と観光に関する中国語でのプレゼンテーション問題が出題されます。

一次試験4科目のうちいくつか落とした場合

一次試験4科目のうち1科目でも不合格ですと二次試験には進めません。ただし合格科目は翌年一年に限り生きています。つまり翌年は不合格だった科目だけ合格すれば二次に進めます。この年も不合格だとさらにその翌年は全科目受験しなければなりません。

免除科目

HSK6級合格で中国語筆記試験は免除ですが、他にもいろいろ免除可能な試験があります。中国語では他に中国語検定試験1級合格で免除、地理では日本地理能力検定の1級または2級保持者は免除、旅行業務取扱管理者試験合格者も同じく免除。歴史では日本史能力検定1級または2級保持者は免除、大学入試センター試験日本史Bで60点以上取得者も同じく免除。一般常識では大学入試センター試験現代社会で80点以上取得者は免除となっています。

通訳案内士試験の試験会場と受験費用

試験会場は一次試験が東京、大阪、名古屋、札幌、仙台、広島、福岡、沖縄、ほか数か所。二次試験が東京、大阪、福岡。海外は台北でも。受験費用は11700円。

通訳案内士試験の試験問題について

一次試験

中国語問題

では具体的に中国語試験問題を見ていきましょう。

通訳案内士試験は「通訳案内士の業務を適切に行うために必要な読解力、日本文化等についての説明力、語彙力等の総合的な外国語の能力を問うものとする」というコンセプトのもとに作られています。

試験時間は、120分。100点満点。出題は、外国語文の読解問題2題(配点25点程度)、外国語文和訳問題1題(15点程度)、和文外国語訳問題1題(30点程度)、外国語による説明(あるテーマ、用語等について外国語で説明する)問題1題(30点程度)。 マークシート方式と記述式問題の両方があります。70点が合格基準点です。

「日本政府観光局のWebサイト」の「通訳案内士試験 筆記試験過去問題(http://www.jnto.go.jp/jpn/projects/visitor_support/interpreter_guide_exams/question_archive.html)」のところに過去問が7年分入っていて見ることができます。ただし著作権に触れそうな部分は黒で塗りつぶされていて見ることができません。

地理問題

地理の問題は「外国人観光旅客が多く訪れている又は外国人観光旅客の評価が高い観光資源に関連する日本地理についての主要な事柄(日本と世界との関わりを含む)のうち、外国人観光旅客の関心の強いものについての基礎的な知識を問うものとする」というコンセプトのもとに作られています。試験の方法はマークシート方式。 試験時間は40分。100点満点。問題数は40問程度。内容は地図や写真を使った問題を中心としたもの。70点が合格基準点です。

歴史問題

歴史の問題は「外国人観光旅客が多く訪れている又は外国人観光旅客の評価が高い観光資源に関連する日本歴史についての主要な事柄及び現在の日本人の生活、文化、価値観等につながるような日本歴史についての主要な事柄(日本と世界との関わりを含む)のうち、外国人観光旅客の関心の強いものについての基礎的な知識を問うものとする」というコンセプトのもとに作られています。 試験はマークシート。試験時間は40分。100点満点。問題数は40問程度。 内容は、地図や写真を使った問題が中心。 70点が合格基準点です。

一般常識問題

一般常識の問題は「現代の日本の産業、経済、政治及び文化についての主要な事柄(日本と世界との関わりを含む)のうち、外国人観光旅客の関心の強いものについての基礎的な知識(例えば、試験実施年度の前年度に発行された「観光白書」のうち、外国人観光旅客の誘客に効果的な主要施策及び旅行者の安全・安心確保に必要となる知識、並びに新聞(一般紙)の1面等で大きく取り上げられた時事問題等)を問うものとする。 試験はマークシート方式。試験時間は40分。100満点。問題数は40問程度。60点が合格基準点です。

二次試験

二次試験は「総合的な外国語の能力並びに日本地理、日本歴史及び一般常識に係る正確な知識を活用して行われる、通訳案内の現場で必要とされるコミュニケーションを図るための実践的な能力について判定するものとする」というコンセプトで用意されています。具体的には「外国人観光旅客が多く訪れている又は外国人観光旅客の評価が高い観光資源に関連する地理、歴史並びに産業、経済、政治及び文化についての主要な事柄のうち、外国人観光旅客の関心の強いものを題材として、受験者に通訳案内の業務を擬似的に行わせる」という内容です。

試験時間は10分程度。試験は試験官が読み上げる日本語を外国語へ通訳する「通訳問題」、提示される3つのテーマから受験者が1つを選び、外国語で説明を行い、そのテーマについて試験官と外国語で質疑応答を行う「プレゼンテーション問題」の2問があります。6割が合格基準点です。

通訳案内士試験の勉強法

中国語問題の勉強法

中国語問題の勉強法は先に書きましたようにHSK6級をめざしてください。ではこの通訳案内士試験の中国語筆記問題(HSK6級を持っていれば免除される)はまったくメリットがないかと言えばそんなことはありません。記述問題は日本文化などについて問われますので、この問題に対応した勉強をしていれば二次試験のプレゼンテーション問題に役立つでしょう。

地理問題の勉強法

上記したように「地図や写真を使った問題を中心とする」となっていますのでここが重要です。このことを頭に置いて勉強のお勧めとしてはまずは過去問。これは日本政府観光局のHPだけでなく市販されていますのでそれを買うといいでしょう。塗りつぶされているところもちゃんと載っています。

中学校の地理の教科書で写真、地図などを見て、基礎からきちんと頭に入れておくと役に立ちます。成美堂出版 『脳を鍛える! 書込み式地図ドリル』 数学研究社『力の5000題(社会)』が良いという話も聞きます。

歴史問題の勉強法

こちらも「地図や写真を使った問題を中心とする」となっています。地理といっしょで、市販の過去問、高校の日本史の教科書を持っている人はこれと歴史年表は役に立ちます。歴史は本当に基礎からわからないという人は漫画で書かれた日本史や文化史の本を探すといいでしょう。たくさん出版されています。『山川 詳説日本史図録』がお勧めという人もいます。

一般教養問題の勉強法

日本政府観光局のHPに「新聞の一面に出た時事ニュースや観光白書」とあるのですから、この二つは押さえておくべきです。どの新聞でもいいので一面の記事は読んでおきましょう。新聞を取っていない人はネット上の新聞で時事問題はチェックしておきましょう。観光白書は毎年一冊出ています。最新版を買った方がいいと思います。これ以外はもう何が出るかまったくわかりません。過去問をやって、なんとか6割は確保してください。極端に難しい問題が出た場合他の人もできていませんから何らかの措置が取られるはずです(合格基準点を下げるなど)。

二次試験の勉強法

通訳案内士資格は中国語に関する唯一の国家資格です。ガイドにならなくても、この勉強をしておくと中国語会話力のアップに役立ちます。そういう意味で楽しい勉強だと思いますが、独学はなかなか大変でしょう。

二次試験対策の中国語教室はたくさんありますからそういう所で1~2か月特訓を受けるといいと思います。受験仲間と中国人の先生を見つけて個人レッスンをお願いしてもいいでしょう。その際大事なのは予想問題をできるだけたくさん、できたら100項目以上作ることです。なにしろ「日本の侍はなぜ刀を2本さしているのですか」などという問題が出るのですから、どう答えるか、まず日本語で考えておかないと頭は真っ白になってしまいます。

私自身この資格保持者ですが、二次対策では200項目くらい自分でQA(予想問題とその答え)を準備しました。その後、通訳案内士試験対策クラスで教えたこともあるのですが、その時この自分の経験から200項目くらい準備しておくといいですよ、と受講生にアドバイスしたことがあります。

するとお一人本当に200項目準備した方がいました。試験のあったその年は冷夏で、この方は二次試験で「冷夏」について聞かれたそうです。「冷夏」という言葉は日本語で中国語にはありませんから、中国語で“冷夏lěngxià”と言われても普通は何のことかわかりません。けれどもその方は自分で準備しましたからしっかり記憶に残っていました。この質問に焦ることもなく無事合格されたそうで入念な準備が生きたと言えるでしょう。

ただ自分でQAを全部考えるのはなかなか大変です。外国人が質問しそうなQAが載っている本など(英語の日本ガイドコーナーなどにあります)に目を通しておくのもいいですね。また中国語の二次試験は英語の二次試験の一か月後です(年によって変わるかもしれませんので毎年確認する必要があります)ので、ネットなどでその年の英語の二次試験にどんな問題が出たかチェックしておくととても良い準備になります。

ところで以前この試験で試験官を務めた方に、どういう基準で落とすのかお聞きしたら「ロジックがしどろもどろで何を言いたいのかわからない人」「中国語の発音がひどくて何を言っているのかわからない人」と教えてくれました。何を言っていいかわからなければしどろもどろになります。日本の観光地や文化、歴史についてまずはしっかり勉強しておくことでしょう。