中国語のリスニングのコツと勉強法

ここでは中国語リスニング力アップのためのコツや勉強法についていろいろ紹介します。

日本人学習者にとっての中国語リスニングの難しさ

日本で暮らす日本人学習者にとって中国語のリスニングは非常に難しいものがあります。その理由は

(1)漢字を見ると意味がおおよそわかってしまうため、リスニングもわかっていると思う傾向があること。ところが音はまったくの外国語、ゼロから始めるしかありません。それにいつ気が付くかが勝負です。十年くらいやって自分は中国語はずいぶん勉強してきた、と思っていた人が中国に行ってまったく聞き取れず愕然とするということはよくあります。

(2)中国語の単語には1音節1単語のものが数多くあり、たとえばbēi・běi・bèiなどと聞いた時、瞬間的に“背”(「背負う」だな)とか“北”(「北」のことだな)とか“备”(「備える」かな?)とか判断する必要があります。また中国語には同音異義語も多いので、文全体の中でそれらを特定しなければなりません。日本語ですともう少し音節が多い。たとえば「背負う」は3音節、「北」は2音節、「そなえる」は4音節です。音節が増えれば意味を取るのはぐっと易しくなります。逆に言うと中国語はそれだけリスニングが難しいということです。

(3)中国は広く、「普通話」と言われる標準語であっても地域によるイントネーションのなまりが濃厚に残っています。これが中国語のリスニングの難しさに輪をかけます。せっかく標準語(日本人が学校で習う、いわゆる北京語のことです)を一生懸命覚えたのに、地方に行くと、あるいは地方から日本に来た中国人と話すとイントネーションが真逆だったりする、そり舌音が反っていない、逆にそり舌音でないものが反っていたりする。たとえば「大統領」の中国語“总统 zǒngtǒng”が“zhǒngtǒng”に聞こえたりするのです。こうした日本人泣かせの音は枚挙にいとまがありません。

リスニング力がないとコミュニケーションは取れない

そうは言ってもリスニング力をつけなければコミュニケーションは取れません。コミュニケーションに大切なのは実は話す力より聞き取る力です。話せなくても聞き取れればあとは多少はなんとかなります。話せても聞き取れなければ、それ以上にっちもさっちもいきません。

中国語のリスニングを上達させる方法

ではどうしたらこの難関を突破して中国語のリスニングを上達させるか?近道はあるか?私の経験で言うなら近道はありません。地道にやっていくしかない。ただしやみくもにやっても続きません。効果の高い方法を地道にやっていくことです。効果の高い方法を以下に書きます。

(1)書き取りをする。

中国語の音源を流して書き取りをし、あとで答え合わせをするのです。この時大事なのはわからなくてうんうん苦しむことです。そうすると印象に残り、あとで「あっあの時の音だ」と頭と耳に刻み込まれます。この書き取りにもコツがあります。

書き取りのコツ1: 音を何音か続けて流し、頭に残しておくこと。1音1音止めて書き取ったりしないこと。1音1音では頭に音を残す必要がありませんが、リスニング力はつきません。映像が残像として残るごとく、音が残響のように頭に残ることが大切です。なぜならば人の話を聞くとは1音で意味を取り、また1音で次の意味を取るというようなものではないからです。音は一定の長さで頭に刻印され、それが同時に意味になっていきます。一定の長さが頭に残っていないようでは、意味への変換ができません。

書き取りのコツ2: 音からではなく全体の意味から書き取ること。実は人の言葉というのは音、特にマイクなどを通して伝わってくる音は、本来の音とはかなり違った音に聞こえてきます。日本人がそれでも日本語でのコミュニケーションに支障をきたさないのは、こういう場面ではこういう言葉が出てくるといった暗黙の了解事項があるからです。リスニングにはこの暗黙の了解事項がものすごく大切なのですが、中国で育ってない日本人にそうした中国語の暗黙の了解事項はきわめて乏しく、そこで「音ではなく全体の意味で聞く」ということが大切になってくるのです。aに聞こえたけど意味的にはeでなければおかしい、という時はeで書き取ることです。全体に意味の整合性が取れれば音が違って聞こえてきたのです。そう思ってもう一度聞くとaではなくeに聞こえてきたりします。ですから発音を正確に覚えておかないとリスニングでもつまずいてしまいます。発音はリスニングの基礎でもあります。また文法構造が把握されていないとそもそも意味が取れません。こうして見るとリスニングというのは、その人の持つ総合力が試される力とも言えます。

(2)シャドーイングをする。

シャドーイングは暗記や発音矯正に役立つ方法ですが、それと同時にリスニング力もアップします。意味が聞き取れないとシャドーイングはできないからです。

(3)単音節単語の聞き取り練習をする。

初めに書いたように中国語には1音節で1単語という言葉がたくさんあり、それらはまた他の単語と結びついて大量の単語を作っていくので、単音節単語を瞬間的に聞き取る練習は効果的です。日本語でも「テ」とか「キ」、「ナ」などの音を聞いて瞬間的に何かが浮かぶというのは、日本人には簡単でも外国人にはきわめて難しいことです。この逆が単音節の中国語で、中国人にはきわめて簡単ということが大きな意味を持ちます。つまりそれだけネイティブと外国人学習者には差があるということ、にもかかわらずコミュニケーションの場では対等にやりあわないと満足な会話にならないということです。そこでこれを補うためにこうした練習をするわけです。私は上級者への授業でこの練習法を取り入れていますが、私自身があらためてこの音はこういう意味だったか!と気づかされます。またこの練習法で正解を出してくれる学生さんは上級者の中でも上級者のみです。単音節単語の聞き取りがいかに難しいかがわかります。

(4)語彙量や知識を増やし続ける。

リスニングは語彙がなければどうにもなりませんが、語彙だけ、単語だけでもまたどうにもなりません。たとえば自動車関係の単語を大量に知っていても、エンジンの動きについてまったくの素人ならば、そうした関係の話はちんぷんかんぷんです。話の対象を知っていないとどうにもならないのです。ですからリスニングの力を伸ばし続けていくということは、中国語の単語や中国にかかわることを学び続けるということでもあります。ネットや本、テレビドラマ、中国人とのおしゃべり、中国で暮らすなど、ありとあらゆる方法で言葉と知識を増やしていく…これがリスニングを伸ばすということにつながります。

(5)標準語のリスニングを伸ばすことが「なまり」対策でもある。

標準語のリスニングを伸ばしていけば、あの恐ろしい地方のなまりにもある程度対応できます。「たぶんこのことを言っているのだろうなあ」と想像がつくことが増えるからです。けれどももちろん限度があります。中国人どうしでも半分くらいしかわからないなまりの場合、外国人はお手上げです。会話が成り立ちそうもなければ「普通話で話していただけますか?」と頼みます。わかったふりは悲劇の元です(経験あり)。その普通話でさえかなりなまっていて、それに気づいていない中国人もいるので(みんながなまっていればそれがその地方の標準語になる)、「アナウンサーが話しているような普通話をしゃべっていただけますか?」と頼みましょう。目を白黒させてしまうかもしれませんが、聞き取れなければしかたないことです。ただし最近の若い人たちは、中国のどの場所で育っていてもかなりきれいな標準語をしゃべってくれるようになりました。