日本人と中国人の「食事をご馳走する」という言葉の違い

中国人の考える「ご馳走する」

日本人と中国人では、「ご馳走する」という言葉に対する受け取り方が違います。異文化ゆえの誤解が生じやすいポイントなどを紹介します。

日本語と中国語で「食事をご馳走する」の意味するところ

日本語で「ご馳走する」とは「人を食事に招待すること」、または一緒に外食して「人におごること」です。中国語ではこれを“请客”と言い、日本語と同様「人を食事に招待すること」という意味と、食べ物に限らず「おごる」、つまり相手がお金を払って何かを買う時、自分が相手のためにお金を出すことも意味します。

20年ほど前ある親戚の集まりで、息子が軽自動車に乗って現れたのを見てその父親が「なんだ、軽か…」と馬鹿にしたように言ったのを耳にしましたので、日本人にも車をステータスシンボルにした時代があったのでしょう。

だったら別に異文化と言うほどではないと思われるかもしれませんが、実はけっこう大きな違いがあって誤解を招くことがあります。

日本人が「ご馳走する」と言う時

上記の誤解は、日本人が中国人に“请客”と言う時に発生しがちです。

ほぼ同じ意味なのになぜ?

日本人は「人を食事に招待する」時「ご馳走する」と言うでしょうか。普通は言いません。

自宅に招く時は「バーベキューするからうちに来ない?」とか「子供の誕生会をやるのでぜひ来てください」とか別な言い方をするでしょう。第一人を家に招くというのは、独身ならともかく家族を持つとそうあることではありません。そういう特別な場合に「ご馳走しますから来てください」とはほとんど言いません。たとえ「ご馳走」であったとしても、そういう言い方はおこがましい感じがしますし、相手が「ご馳走」だと感じてくれるかどうかもわからないから避けます。

では外食の場合はどうでしょうか。

「明日は祖父の誕生パーティを〇〇ホテルでやるんだけど、ぜひあなたも来て!」

こんな言い方になるのでは?

「今晩家族で中華街に北京ダック食べにいくんだけど君も来ない?ご馳走するよ」

こんな言い方ならあるかもしれませんが、この時の「ご馳走する」は「人におごる」方の意味です。

つまり日本人が人に「ご馳走する」と言う時は「人におごる」という意味で使うことがほとんどなのです。

中国人が“请客”と言う時

一方中国人が“请客”と言う時は両方の意味があります。日本語と同様「ここは僕が支払うよ」という意味で“请客”を使うこともあれば、「食事に招く」という意味で“请客”と言うこともあります。

「ご馳走する」と“请客”がすれ違う時

それではどういう時に誤解が発生するかというと…

中国人が「食事に招く」という意味で“请客”と言う時は、その言葉に「テーブル一杯にはみ出るほどのご馳走を用意する」という含意があります。

日本語の「ご馳走」にも「豪華な料理」という意味はありますが、先に挙げたように「ご馳走する」という言葉は、「豪華な料理をふるまう」というような、中国語の“请客”のような含意を持つ場面ではほとんど使いません。別の言い方をするのです。

そうすると日本人は単に「この場は自分が持つ」「この程度の安い料理でも自分が払う」の意味なら“请客”という言葉が使えると思い、「どんな料理でも自分が支払うなら」「どんな料理でもただで食べさせてあげるなら」“请客”と言えると思ってしまうのです。

ところが友人を食事に招待する時“请客”という言葉を使うとそれは「テーブル一杯のアツアツの大ご馳走」という意味として中国人に伝わります。そこでそういう料理ではなかった場合、相手はがっかりする…くらいならいいのですが「この人すごいケチ!」と思われたりします。せっかく自腹を切ったのにそれはないだろう…と思うかもしれませんが、言葉とはそれが含意するイメージとともに伝わるものです。

逆に言うと中国人が食事に招待するという意味で“请客”と言ったら期待して大丈夫。そう言ったのにショボイ料理でしたらそれは正真正銘「ケチな人」です。でも中国人は何より面子を大事にしますのでまずそんなことにはなりません。