春節(中国の旧正月)の習慣

春節-年(年獣)

春節とは、中国の旧正月(旧暦の正月)のことです。中国では1月1日ではなく、旧暦の正月を盛大に祝い、通常1週間程度(春節の前日~春節の1週間後程度)が休日になります。

春節は旧暦のため、毎年日付が変わります。1月下旬~2月中旬の間にある1日(旧暦の正月、元旦にあたります)を指します。

なお、2024年の春節は2月10日のため、2月9日~2月17日ごろが休日となっています。

春節は旧暦の正月

中国では1912年に太陽暦が採用されましたが、伝統的な祝日は太陰太陽暦(陰暦、旧暦とも言います)で祝います。

日本ではお正月は全国一律に太陽暦で祝いますが、東アジアや東南アジアで太陽暦でお正月を祝う国は少数派です。中国大陸のほか香港、台湾、韓国、モンゴル、ベトナム、シンガポール、マレーシアなど、お正月と言えば皆旧暦のお正月だそうです。

つまり中国人にとってお正月とは旧暦で祝う春節のことで、日本人が祝う太陽暦のお正月は元旦のみ休日ではあるものの、一般にはお祝いしないのです。そしてこの旧暦というのが面白くて、旧暦の新年を太陽暦と照らし合わせると、毎年複雑な変化をします。たとえば2023年の春節は1月22日、2024年は2月10日、2025年は1月29日、2026年は2月17日、2027年は2月6日です。毎年1月の下旬から2月の下旬のどこかの日になるのですが、春節が近づかないと中国人に聞いても「来年の春節?いつかなあ。カレンダーが出るとわかるんだけど」という返事が返ってくることが多いのです。

春節で新しい干支に変わる

中国の干支
中国の干支

中国では春節が来てはじめて新しい干支(えと)になります。新年が来れば干支は中国でも日本でも変わるものだと思っていたら、中国の干支は春節が来ないと変わらないんですね。たとえば2024年は日本では1月1日から辰年(とりどし)ですが、中国では1月31日までは卯年(さるどし)で、2月1日になってやっと辰年になります。干支の動物は最初に日本に来てくれるんですね。

干支に関しては「中国の干支と十二支」のページで、詳しく説明してあります。日本と中国の干支の動物の違いなどもあります。

春運 延べ37億人の大移動

春運(春節の帰省ラッシュ)
春運(春節の帰省ラッシュ)

ふるさとを離れ都会で暮らしている人も、お正月となれば実家に帰って家族団らんを楽しみます。家族をひときわ大切にして生きている中国人にはいっそうこの気持ちは強く、春節が近づくと中国の交通機関は大混乱をきたします。いわゆる「帰省ラッシュ」ですが、これを中国語では“春运”と言います。おおよそ旧暦の12月15日から1月の25日まで約40日間の「帰省ラッシュ」によって運ぶ人の数はのべ37億人にのぼるそうで、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ大陸、大洋州の総人口が一挙に引っ越す様(さま)にたとえられています。これは30年ほど前まではのべ1億程度だったそうで、いかに近年の中国人が都会に出て働くようになったかを表してもいるわけです。

中国の大晦日とその習慣

春節の大晦日
春節の大晦日

日本ではお正月の行事は暮れの大掃除あたりから始まり大晦日になるといよいよお正月だなという気分になります。年越しそばを食べ、こたつに寝転がりながら紅白歌合戦を見て、勝敗の決着がつくとテレビの画面は一転厳かなお寺の映像に。今年もあとわずかで終わってしまうんだなとしみじみとした思いにとらわれていると、やがて遠く近く除夜の鐘が聞こえてきます。

中国の春節でも同様に“除夕 chúxī”(大晦日)があり、“春节 晚会 Chūnjié wǎnhuì”という国民的番組があって歌や踊り、コントなどのにぎやかなショーを繰り広げます。この番組は中国政府の肝いりですから、時にはその年の中国政府の動向も伺い知ることができます。家族みんなでこの番組を見たり、おしゃべりをしたりして夜を明かすんだそうですが、これを“守岁shǒusuì”(大晦日に寝ずに新しい年を迎えること)と言います。これもまた日本と同様、過ぎ去る年を惜しみ、新しい年を心して迎えようという習慣でしょう。

春節(元旦)の習慣

春節-花火
春節の花火

日本では翌朝元旦になると、まるで時間の質が変化したかのような厳粛な心持ちで新年というまっさらで清らかな時を迎えますが、中国の春節にはこうした感覚はありません。中国の春節は爆竹や花火のにぎやかな音で始まり、このにぎやかさこそがめでたいのです。家族が全員そろい、皆でわいわい水餃子など“年菜 niáncài”(おせち料理)を食べ、近所の人と“拜年 bàinián”(新年のあいさつ)を交わします。どこの家の戸口にも“春联 chūnlián”(春節に門や入り口などに飾られる対になったおめでたいことば)が貼られ、窓枠にも赤い飾りが。赤い色はおめでたさの象徴です。

春節-爆竹-1
爆竹で祝う
春联(対聯)-1
春联-1

「春联-1」(上の画像)の日本語訳:「幸せな年を喜び迎え、豊かな暮らしを喜び受ける」

“春联”では文の構造も対になっています。

喜迎(喜び迎える)と笑纳(笑っておさめる)、 四季(四季、一年)と八方(四方八方)、平安富(平安無事の富)と富贵财(富貴の財)がそれぞれ対になっています。

春联(対聯)-2
春联-2

「春联-2」(上の画像)の日本語訳:「春を迎え百の幸福を受け取る、平安無事にゆとりある暮らしを祝う」

迎春(春を迎える)と平安(平安無事)、接(受ける)と庆(祝う)、百福(百の福)と有余(ゆとりがある、豊かである)がそれぞれ対になっています。

こういう対句は売ってもいますし、よく字を知り、うまい字が書ける人に書いてもらうこともあるようです。

春節の爆竹と赤色にまつわる伝説

春節-爆竹-2
爆竹で「年」を追い払う

なぜ中国人はお正月を爆竹や赤い色で祝うのでしょうか?これにはこんな言い伝えがあります。

昔々中国には「年」という猛獣がいたそうな。「年」は正月が近づくと決まって村里に下りてくる。そして村人を襲い喰らう。村人は正月が来ると山に逃げた。

ある年の暮れ、村に一人の老いた物乞いがやってきた。村人はみな避難するのに必死で誰も相手をしない。一人の婆様が声をかけた。

もうじき「年」がやってくるだよ。あんたも早くお逃げ。さもないと喰われてしまう。

すると物乞いはこう言った。

わしがその「年」を退治してやろう。その代わり婆様、あんたの家に泊めておくれ。

婆様は物乞いに泊まり込んでもよいと告げ、みなと一緒にすたこら山に逃げていった。

その夜「年」がやってきた。「年」は村に入るとまず婆様の家に襲いかかった。すると家の中からは何かがパチパチとはぜる音、そして真っ赤な炎がチロチロと舌を出している。その前ではかの物乞いの老人が赤い着物をまといカラカラと大笑いしている。

「年」はそれを見てすくみあがった。そして転げるように一目散に逃げていった。

なんと獰猛(どうもう)な「年」はパチパチとはぜる音と赤い色を何より恐れるのだった。

こうして物乞いの老人によって救われた村は平和を取り戻し、村人は正月が来ると爆竹を鳴らし、赤い色の窓飾りや提灯(ちょうちん)で家を飾るようになった。めでたし、めでたし。

春節-年(年獣)
年獣。年よ、お前が赤くてどうする!

「年」という怪獣いったいどんな姿をしていたのでしょうね。ネットの画像にはさまざまな姿が登場し、「年」が想像の動物であることを伝えています。ここにあげた画像、なんだか愛らしくてとても人を喰うとは思えませんね。

年画(ねんが)

“年画 niánhuà”とは中国絵画の一種で、版画にしたものを春節に部屋などに貼って飾るものです。芸術品というより民間工芸品と言った方がいいかもしれません。起源は漢代までさかのぼるそうで古い歴史を持ちます。多くは新年を寿(ことほ)ぐ図柄がカラフルな色彩で描かれ、ヘタウマ的素朴さが魅力です。とはいえ中には繊細で独特なデザインや配色で高い芸術性を持つものもあります。いずれにしても一目で「中国」を感じさせる絵画・版画です。

春節にこうした年画を飾るのは基本農村部で、近年はそれも廃(すた)れ目にすることが少なくなりました。

春節の食事

春節に食べる餃子の由来

春節-餃子
餃子。へこんだ部分が元宝に似てると思いませんか?

春節に北京など北方では“饺子jiǎozi”(ギョーザ)を食べるのですが、これについては二つの説があります。

一つは漢字から来たという説。ギョーザの漢字“饺”には「交わる」の字が入っています。春節のギョーザは真夜中、つまり子の刻(ねのこく)に食べることになっているのですが、これは行く年と来る年が交わることを意味し、来る年が幸せであることを祈って食べるのだと言われています。

もう一つは、形から来たという説。ギョーザの形が“元宝 yuánbǎo”(馬蹄の形をした銀貨)と似ているから縁起が良いものとして食べるのだと言われています。

元宝
元宝(数百年前はこの形のお金がありました)

什刹海にある銀錠橋の由来も元宝

話がちょっと横道に逸(そ)れますが北京の中心地にある湖“什刹海 Shíchāhǎi”のほとりに“银锭桥 Yíndìngqiáo”という橋がかかっています。このあたり北京を代表する観光スポットですが、この“银锭”とは“元宝”のこと、つまり馬蹄型の銀貨のことです。馬蹄銀、ギョーザ、“银锭桥”、どれもよく似ているでしょう?

什刹海から見える銀錠橋
什刹海から見える銀錠橋
銀錠橋
銀錠橋

南方の春節の食べ物「年糕」

ところでこのギョーザ、北方の春節ではおせち料理としてギョーザを食べるのですが、南方では“年糕 niángāo”(お餅)を食べます。北の主食は小麦粉ですが、南の主食はお米。かつてはそれぞれ採れる作物が異なっており、おせち料理もそれに伴って変わります。

年糕
年糕

春節のお年玉

压岁钱(中国のお年玉)
压岁钱(中国のお年玉)

中国にもお年玉の文化はあり、“压岁钱”と言います。

この“压岁钱”のいわれにも怪獣が登場します。こちらは“祟”という怪獣で子供に襲いかかるのです。子供の枕の下にキラキラ光る銅貨を入れておくと“祟”をやっつけることができる、つまり“压祟 yā Suì”できるのだそうで、その音と同音の“压岁 yāsuì”のいわれはこの “压祟”“祟”をやっつける)から来ているのだそうです。

元宵節(げんしょうせつ)

春節は一般に“除夕”(大晦日)、“初一 chūyī”(元旦)、“初二 chū’èr”(お正月の二日目)、“初三 chūsān”(同三日目)と続き、最後に“正月 zhēngyuè 十五 shíwǔ”(正月の15日)が来て春節の行事は終わります。この15日目を“元宵节 yuánxiāojié”(元宵節)とも言います。春節の元旦の月は新月、つまり太陽と月が同じ方向に並び月が見えなくなるのですが、元宵節はそこから15日目で、新しい年の初めての満月の夜となります。そこで「元」(正月)の「宵」(夜)と呼ぶようになったということです。この日も地域によっては盛大に祝い、赤い提灯を飾り、“元宵”と呼ばれるお団子を食べます。

元宵節について詳しくは、元宵節の項目にあります。

さまざまないわれを持つ春節の習慣は、邪を払い幸福を願う昔の人々の祈りが反映されたものと言えます。

いかがでしょうか?日本と同じ点、異なる点いろいろありますね。来る年の幸福を願う気持ちは日中同じ、でもそれが外に現れる様はだいぶ異なります。日本では厳粛な心持ちで、中国ではにぎやかに新しい年を迎えるんですね。