花木蘭(ムーラン)

花木蘭

花木蘭(ムーラン)とは

花木蘭」とは中国の歌や伝説の中で語られる有名な女将軍で、中国人なら誰でも知っています。日本ではあまり知られていませんが、ディズニー・アニメの『ムーラン』と言えばわかる人もいることでしょう。

「女将」(おかみ)と書くと日本語では和風旅館や料亭を切り盛りする女主人のことですが、中国語で「女将」と言えば馬に乗り、刀をさげて戦場に駆けつける勇猛な女武将のことで、花木蘭もその一人です。

花木蘭の物語

花木蘭」の名前が最初に登場するのは南北朝時代の北魏(A.D.386~534…鮮卑族が立てた政権)の民謡『木蘭辞』の中です。この『木蘭辞』という短い歌が後の世で脚色され劇となっていきます。

『木蘭辞』

ため息が伝わってくる。木蘭は入り口に向かって機織りをしている。

なのに機織りの音は聞こえず、木蘭のため息だけが聞こえてくる。

木蘭よ木蘭、いったい何を考えているの?

木蘭よ木蘭、何がそんなに気がかりなの?

私は何も考えてなんかいない。

気にかかることなんて何もない。

昨日の夜徴兵の命令が出た。王様は大勢の兵士を集めている。

徴兵の名簿には父の名前も入っている。

私の父には息子がいない。私には兄さんがいないの。

木蘭は市場に行って馬と馬の鞍を買い、父に代わって戦場に行こうと決めた。

次の日の朝親にも告げず家を出て、夜は黄河のほとりで野宿をし、「木蘭、木蘭」と探しまわる親の声も聞こえない。聞こえてくるのは黄河が流れる音ばかり。

また次の日の朝黄河を離れて歩き出し、夜には黒い山のてっぺんに着いた。「木蘭、木蘭」と探しまわる親の声も聞こえない。聞こえるのは燕山の胡兵の馬のいななく声。

万里もものとせずに戦場に駆けつける。幾山越えて飛ぶがごとく。北の冷気から夜巡りの音が聞こえてくる。月光は戦士のよろいや兜を照らす。戦士たちは百戦練磨、ある者は国にその命を捧げ、ある者は転戦して勝利を持ち帰る。

戦いに勝って帰れば天子が殿堂に座ってご褒美をくださる。木蘭は大きな手柄を立て、千百金余りの褒美をいただく。天子は木蘭に願いを聞いた。

褒美の地位はいりませぬ。故郷に返してくださいませ。

娘が帰ってきたと聞いて、父母はお互いに支え合って城外まで迎えに行く。

妹が帰ってきたと聞き、姉はきれいに着飾った。

姉が帰ってきたと聞き、弟は腕をふるって豚と羊を屠った。

木蘭は部屋に入ると戦場の服を脱ぎ、娘の衣装に着がえた。鏡に向かって髪をくしけずり、飾りものをつけた。それから外に出て戦友たちに会うとみなのけぞって驚いた。こんなに長いこと一緒に戦ってきたのに、木蘭が女だとは誰一人気づかなかった。

長さ300余字のこの歌はやがて隋や唐の文人たちに潤色され、明代の文学者によって『雌木蘭替父従軍』という劇になりました。

この劇の中で花木蘭は「私は姓を花、名を木蘭と申します」と名乗ります。こうして木蘭の名は「花木蘭」になったのです。

花木蘭

中国人に愛され続けた女性の英雄

北魏の時代、北方民族が南下侵入を繰り返たため、北魏政権は家から一人男子を徴兵し前線へと向かわせました。花木蘭の歌はこうした時代に作られました。実話が元になっているのかもしれませんが、花木蘭についてははっきりとした歴史的資料が残されてはいません。

若い娘が病弱な父親の代わりに男装して戦場に向かい、勇敢に戦い抜いて勝利をおさめ、ほうびに与えられた高い地位も断り、ふるさとに戻って親孝行をした花木蘭の話はいつの時代も中国人の心をつかみ、花木蘭は中国を代表する女性英雄になりました。

京劇・アニメ・映画になった「花木蘭」

この話は京劇『花木蘭』としても演じられ、近年は1998年にディズニーのアニメ映画『ムーラン』にもなっています。2009年にも中国映画『花木蘭』が上映され、花木蘭は中国最初の国民的アイドル・ヴィッキー・チャオによって演じられました。2018年にはディズニーが中国の人気女優を起用して実写化することになっています。