嫦娥奔月
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嫦娥奔月
『嫦娥奔月』は中国の神話・伝説で、嫦娥という月に住む仙女の物語です。
昔々嫦娥という名前のそれはそれは美しい女性がいました。彼女は后羿(こうげい)という弓矢の名手の奥さんです。
昔世界には太陽が10個もあったのだそうです。この10個の太陽に人々は苦しみ、それを救おうと后羿は9つを射落とします。そして残った太陽に毎日時間通りに昇り、時間通りに沈むように言い含めたそうです。この功績から彼は西王母から不老不死の薬をもらいます。
この薬を彼の妻嫦娥はこっそり一人で飲んでしまいます。なぜそんなことを?
ここにはいろいろな説があります。
一つは嫦娥が身勝手な女で、天に昇りたくて夫の目を盗んで一人薬を飲んでしまったという説。これによって嫦娥は罰せられ月の宮殿で一人寂しく暮らしている、というのです。また罰として嫦娥は月でガマにされてしまったという説も。
もう一つは夫の留守に悪者が不老不死の薬を盗もうとしたので仕方なく自分が飲んでしまったという説。
さらにもう一つは夫の后羿は太陽を射落とした功績で高い地位を得るのですが、そのことですっかり舞い上がり暴虐な王になってしまうのです。こんな男が不老不死になったらたまったものではないというので、嫦娥は自分がこの薬を飲んだという説です。
いずれにせよ嫦娥は夫とは離れ離れになり、一人月に住む寂しい身の上になってしまいます。
月はとても寂しい場所だったようです。でも嫦娥以外誰もいなかったかというとそんなことはありません。呉剛という男とウサギとがいました。呉剛は罪を犯し、この罪も殺人とか仙人の修行の際の罪だとかいろいろな説があるのですが、ともあれ罰されて月に送られます。ここで月桂樹の木を伐採するよう命じられるのですが、この木は切っても切ってもまた生えてくるのです。呉剛は月の中で永遠にこの木を伐り続けているのだそうです。
ウサギは嫦娥のお伴という説もあれば嫦娥の化身だという説も。日本でウサギは月で餅つきをしていますが、中国から見える月では薬をついているのです。このウサギは玉兎とか月兎とか呼ばれています。
ところでこのウサギ、別の話の中でもけっこう活躍しています。昔北京で疫病が流行ります。人々が病を癒す祈りを捧げていると、月の嫦娥がこれを見て哀れみます。そこで月兎をこの世に送るのです。するとウサギは少女の姿になって人々の病を癒していきます。やがて疫病は終息するのですが、北京の人々はこれに感謝し毎年8月15日の中秋節になると“兔儿爷 tù’éryé”という泥人形を作ってお供えをするようになったと言われます。少女なのになぜ“爷”(爺)という言葉がついているかというと、“爷”(爺)は「爺様」という意味ではなく、位の高い人・神様という意味があるからです。“兔儿爷”は月に住む神様なんですね。その後“兔儿爷”は子供たちの玩具の一つになり、今ではおめでたい民間工芸品として売られています。
覚えたいことば:嫦娥Cháng’é 嫦娥・月に住む仙女