皮影(ピーイン)・皮影戯(ピーインシー) 中国の影絵
皮影・皮影戯(
)とは?皮影戯(ピーインシー)は中国の伝統的な影絵芝居です。千年以上の歴史がある中国の伝統芸能で、一説によるとその起源は漢代にさかのぼるとか。そうすると二千年の歴史があることになりますね。
皮影は皮影戯で使われる影絵人形のことを指します。
影絵の人形はロバやヤギ、牛など動物の皮で作ります。それぞれの人形に操作するための棒を3本ほどつけ、それを使って操ります。
スクリーンは白い布。その布に人形をピタリと当て、上から光を当てます。照明はかつては「油灯」(ランプ、油皿)でした。影絵人形の形は彫刻刀できわめて繊細に裁ち切られ、それに彩色を施して光を当てるとなんとも玄妙な美しさ。人形を操る人のそばでは楽師が胡弓やどらを奏で、甲高い声で歌います。出し物は「西遊記」や「白蛇伝」など神話、伝説の一場面。観客はスクリーンの向こう側から、よく知ったそれらの物語を人形たちがまるで生きているかのように動き演じる様を楽しむのです。
中国映画『活きる』に登場
張芸謀監督中国映画『活きる』をご覧になったことはありますか?1994年のこの作品はカンヌで審査員大賞や主演男優賞を取ったにもかかわらず、中国国内では上映禁止処分を受けました。文化大革命時代を暗く描いたという理由だったと思います。日本では2001年に上映され、なんと素晴らしい作品だろうと感動した記憶があります。こんな素晴らしい作品がなぜ日本では長く上映されなかったのかとても不思議でした。それから20年近く経つ今も中国映画屈指の名作だと思います。ところで皮影戯はこの映画にたびたび登場します。主人公は地主の家に生まれた放蕩息子、彼は博打で家屋敷を失い、生活に困ってこの皮影戯で家族を養うようになるのです。「皮影」と呼ばれる影絵人形の入った箱をかついで一座とともに旅から旅へ。にわかごしらえの芝居小屋に集まる観客はその土地の農民たちです。この伝統芸能が庶民の娯楽だったことがよくわかります。
文革後衰退
千年以上の歴史を持つこの芸能は清朝末期から中華民国時代にかけて特に人気があったようですが、新中国成立後、文化大革命時代(1966~1976年)に「破四旧」(旧思想、旧文化、旧風俗、旧習慣)として迫害され、これを機に衰退していきます。2011年にはユネスコ世界無形文化遺産に登録されましたが、現代芸能としての活力は失ってしまっているようです。
芸術品のような「皮影」
皮影は芝居の道具ではありますが、これそのものが芸術品としての価値を持ち、現代の作品はかなり高値で売られています。
十数年前北京の工芸デパートで、皮影職人さんが実演販売をしていました。顔だけの小さな作品の値段を聞くと当時百元近くし、それを値切って五十元ほどで買いました。非常に魅力的な造形でしたが、その職人さんが自分で考案したものではなく、先祖伝来の作り方に基づいているのだと説明してくれました。
このままの形でも飾っておきたい魅力を持っていますが、光を当てた時の美しさは中国の美術品の中でも傑出したものではないでしょうか?庶民の暮らしから生まれた民間芸能の一つですが、愛さずにはいられない中国の伝統文化です。