中国の切り絵 「剪紙(せんし)」
「剪紙」とは中国の切り絵(切り紙細工)で、古くから玄関や窓などに飾られてきた民間伝統工芸です。2009年には世界無形文化遺産に登録されました。
目次
- 1. 剪紙(せんし)とは
- 2. 剪紙の題材
- 3. 剪紙を実際に作ってみよう!
剪紙(せんし)とは
「剪紙」は紙をハサミや彫刻刀などで切って、繋げたまま模様を作る中国の民間工芸です。この剪紙に描かれる題材には、干支・神獣・桃など多種多様なものがありますが、主に中国で縁起がいいとされているものが使われています。また、地域に関しても中国全域に渡って作られてきました。
日本や欧米にも「切り絵」という文化はありますが、剪紙とそれらの「切り絵」との最大の違いは図案の中に意味や願いが込められていることです。一般に日本や欧米の切り絵には意味や願いは込められておらず、美しさを追求するものが多いのに対して、剪紙は図案によって幸福や豊かさ、子孫繁栄などの意味を込めて作られています。
剪紙の作り方
剪紙は、通常の単色剪紙の場合、まず下絵を描いた後、
・ハサミで切る
・彫刻刀、カッターで切る・彫る
・キリなどで穴をあける
などの方法で作られます。
単色の剪紙以外では、白い紙にデザインを刻んだ後に染める染色剪紙や、金色の紙に全体のデザインを刻んだ後、部分的に様々な色の紙を切って貼り付ける手法などがあります。
剪紙の色
多くの剪紙は赤い紙によって作られていますが、これは中国では「赤」が最も縁起のいい色とされるところから来ています。(参考:「中国語の色の表現・中国で縁起のいい色」)
剪紙の技法「陰刻」と「陽刻」
模様や文字などの部分を削る(切り取る)ことによって表現することを「陰刻」と言い、模様や文字などの部分を残すことによって表現することを「陽刻」と言います。
※河北省など北方では大きな紙を使い陰刻による表現が多く、福建省など南方では陽刻による細やかな表現が多くなっています。
剪紙の使われ方
作られた剪紙は、窓・壁・玄関・扉などに張って飾ります。
剪紙が特に作られたのは「春節」の期間ですが、この時つくられる剪紙は、その年の干支を題材として作られたり、1年の幸福や繁栄を祈るものを「年画」や「春聯(対聯)」などと一緒に玄関の扉に張り付けるなどして飾られています。
また、「端午節」には邪気を払い健康を祈るという習慣があるのですが、「端午節」に飾られる剪紙もそれに合わせて、災いを打ち破る厄除けのようなデザインで作られたりと、節目節目に合わせたものが作られてきました。
剪紙の歴史
中国で紙が発明されたのは遅くとも紀元前2世紀ごろですが、発掘された剪紙のうち最も古いものは南北朝時代(A.D.220~A.D.589)の物になります。ただし、素材を紙としないものであれば、それ以前から絹や金箔などによる剪紙に近い縁起物の図案が作られていたことがわかっています。
また、剪紙は主に春節の期間に窓やガラスに張る「窓花」、元宵節に灯篭(ランタン)に張る「灯篭花」、というように、主としておめでたいときの飾り物として使われてきました。
剪紙の題材
剪紙の主な題材は縁起物
剪紙の図案には、動物・神獣・植物・果物・人間、などが使われています。中でもその年の干支の動物や、縁起のいいものがこの切り絵の題材になってきました。これらの縁起のいい図のことを、吉祥図と言うこともあります。
以下では実際の剪紙の図を見ながら、その図案に込められた意味、由来などを紹介していきます。
干支の動物の剪紙
剪紙が最も多く飾られるのは春節の期間ですが、中でもその年の干支の動物が図案として多く使われます。上の図は2018年の干支、犬(戌年)の剪紙です。
龍と鳳凰の剪紙
龍・鳳凰・麒麟などの聖獣も剪紙のテーマとして使われてきました。これらの聖獣は厄払いや縁起をよくするものとして様々な飾りとして使われています。
龍と鳳凰が並んでいる剪紙では、龍が夫を、鳳凰が妻を意味し、夫婦の幸福への祈りを込めています。
麒麟の剪紙
麒麟は厄払いや、優秀な男児を授けてくれるありがたい聖獣です。この剪紙では赤ん坊が麒麟に乗っていますが、赤ん坊も子孫繁栄の縁起物としてよく剪紙に描かれます。また、この上図では赤ん坊が如意を手に持っていますが、この如意には「願いをかなえる。万事うまくいく」という意味合いがあります。
仙人と桃の剪紙
この剪紙には、ひょうたんを持った仙人と、桃を持った赤ん坊が描かれています。ひょうたんと桃はともに健康・長寿をもたらす縁起物で、仙人と赤ん坊は家族・子孫の繁栄を意味してます。
※桃が長寿と結びつくのは、西王母が管理する桜桃園の話が元になっています。
魚
魚も剪紙によく使われる図案です。魚の中国語の発音は“yú”であり、余るという意味の中国語“余 yú”と同じ発音になっています。このことから、財などが有り余るという蓄財の意味を込めて剪紙のデザインとして魚が使われています。
コウモリ
魚と同じように、コウモリもその発音から縁起がいいものとして剪紙に描かれることの多い動物です。コウモリは中国語で“蝙蝠 biānfú”と書きますが、「福に変わる」という意味の、“变福 biànfú”という言葉と音が似ているため縁起物とされています。
カササギと梅の花の剪紙
上図の剪紙に描かれているカササギは、中国語では“喜鹊”と書きます。名前の中に「喜び」という文字が入っているため、幸せをもたらしてくれる鳥、縁起物として剪紙のデザインになっています。
また、カササギの周囲に描かれているのは梅の花です。梅の花は中国で最も人気のある花として有名です。
双喜紋の剪紙
「喜び」という字を二つ並べた文字(図)のことを双喜紋と言います。上図の剪紙のように、結婚式で使われることの多い図案です。意味としては多くの喜び、幸福などを表しています。
皮影の剪紙
皮影(ピーイン)とは動物の革で作られた影絵用の人形で、これを使った影絵劇のことを皮影劇(ピーインシー)と言います。この皮影は剪紙の普及により生まれた民間工芸です。影絵の劇を行うために、強い素材(皮)が使われていることや、人物の関節部分が動くなど、様々な違いはあるものの、形としては共通点も多くなっています。もともとの時代的には剪紙のほうが先ですが、この皮影の特徴的なデザインを模した剪紙も作られています。
京劇の剪紙
京劇は中国の古典劇ですが、この京劇のデザインを取り入れた剪紙も多く作られています。
剪紙を実際に作ってみよう!
それではこの剪紙を実際に作ってみましょう。
剪紙には色々な作り方はあると思いますが、ここでは左右反転した剪紙の図案を画用紙に印刷して、そのラインに沿って切っていくことで完成したときに裏面を見る、という作り方を紹介します。この作り方だと、図案をプリントアウトしたときの線がところどころ残っても裏側になるので目立たないという利点があります。
さらにこだわりたい方は、図案をプリントアウトした紙の裏を鉛筆で黒く塗りつぶして、画用紙の上にその紙を乗っけて線を強めになぞることで画用紙に線を転写し、切り終ったらところどころ残された線を消しゴムで消すと、光にかざした時でも線が見えずに、よりきれいな剪紙ができます。(だいぶめんどくさいですが…)
では以下の剪紙の図案をダウンロードしてプリントアウトしてみましょう。
剪紙の図案 「双喜紋」
「双喜紋」の剪紙の図案です。15分~30分程度で完成すると思います。
剪紙の図案 「犬」
2018年の干支である「犬」の剪紙の図案です。1時間~2時間で完成すると思います。
※細くなっている部分は切るときに注意が必要です。
剪紙を作る際の注意点
1.プリンターの設定で拡大したり縮小したりして作りたいサイズで印刷しましょう。小さくし過ぎると細かい部分が難しくなります。B5用紙程度の大きさが作りやすいと思います。
2.ペン型のアート用のカッターを使うと細かい部分が切りやすいです。Amazonで「アートナイフ」「デザインナイフ」などで検索すると出てきます。
3.カッターで切る場合は下にカッターマットやいらない雑誌などを敷きましょう。
4.細い部分を細くし過ぎると切れてしまうことがあります。図案のラインよりもやや多めに残すように切ると無難です。