龍 【中国文化】

龍

龍の起源

最古の「龍」

とは中国の伝説に出てくる中国人にとって最も神聖な霊獣のことです。殷(「商」とも呼ばれる。BC17世紀~BC1046年)の時代の甲骨文字にはすでに「龍」の文字があるそうですから、ずいぶん古くからイメージ化されていたことがわかります。

龍の甲骨文字
龍の甲骨文字。1番上の段の右から2番目が「龍」。
甲骨文字
甲骨文字。亀の甲羅や動物の骨などに文字が彫られていた。

龍の姿と起源

龍の姿はワニに似ていて、ワニこそ龍の起源ではないかと言われています。古代氏族社会のトーテム(特定の部族と宗教的に結びつけられた野生の動物や植物の象徴)崇拝の中でワニに神秘的・神奇的な力が与えられていったのではないかと言われています。

中国のワニ
中国のワニ(ヨウスコウアリゲーター)。龍に似ている。

トーテムの統合

龍はさまざまな動物を一部分ずつ合体させた形になっています。鹿の角、牛の頭、ロバの口、エビの目、魚のウロコ、ゾウの耳、蛇の腹…。それらのさまざまな動物が元は中国大陸の東部や北部に住むいろいろな部族のトーテムで、部族が統一されていく過程でトーテムも吸収され、龍という想像上の動物になったという説もあります。

龍と中国の歴史

ともあれ龍という伝説の霊獣は長い歴史の中で形も文化的な意味もさまざまに発展し、豊かなものになっていきます。

雷雨の神「龍」

商や周(BC1046年~BC249年)の時代には龍は雷雨の神とされ、干ばつには龍を祀り雨ごいをするようになります。

皇帝龍生説

周の時代には龍は徳のシンボルになります。漢代(前漢BC206年~AD8年)以降になると皇帝龍生説が起こります。皇帝は龍によって生まれたという説です。そこで皇帝の子孫のことを「龍子龍孫」と言います。

龍は吉兆のシンボル

また龍を吉兆と見るようにもなり、「青龍」「白虎」「朱雀」「玄武」は「四霊(四種の霊獣)」と呼ばれるようになり、龍と鳳凰が同時に現れることを「龍鳳呈祥」と呼ばれるようにもなりました。

龍と鳳凰は結婚の象徴

唐代になると龍と鳳凰を結婚の象徴とすることが流行ります。

龍の文様は皇帝のみ

宋・元・明・清以降龍は皇帝の独占するところとなり、民間で龍の文様を使うことは禁じられます。

瀋陽故宮の龍の装飾
瀋陽故宮の龍の装飾
瀋陽故宮の椅子にある龍の装飾
瀋陽故宮の椅子にある龍の装飾

中華民族のシンボルに

また漢や唐のころから龍は中華民族のシンボルにもなっていきます。傑出した人物の名には龍の字がついています。諸葛亮は「臥龍先生」と号し、趙雲のあだ名は「子龍」です。

龍とドラゴン

龍は民族の象徴、ドラゴンは悪魔の使い

龍はドラゴンと訳されます。欧米でドラゴンは悪魔の使いですが、中国の龍は中国人にとって神聖なる民族の象徴で、中国人は今も自分たちは「龍的伝人」(龍の子孫)だと誇らしげに言います。

以下に龍とドラゴンの見た目の違いの参考画像をいくつか載せています。

頤和園の龍の像
頤和園の龍の像
成都の壁にある龍の装飾
成都の壁にある龍の装飾
スロベニアのドラゴンの像
スロベニアのドラゴンの像
カザンにあるドラゴンの像
カザン(モスクワの南東)にあるドラゴンの像

龍がなぜ悪魔の使いに?

ではなぜ中国人の誇りの象徴である龍が欧米では悪魔の使いになってしまったのか? 実は龍とドラゴンはまったくの別物で、形が似ているので龍をドラゴンと訳したのだそうです。ドラゴンは蛇やトカゲに似せて作られたのだそうですが、龍と違って翼があります。

様々な場所に置かれる中国の龍

龍はさまざまな伝説の動物の中で最も神聖な存在ですから、いろいろな場所でその姿が刻まれています。

北海公園の影壁の龍

北京有数の名所・北海公園にある影壁(伝統建築に使われた目隠し用の壁)には全部で635頭の龍が彫られているそうです。清朝時代の壁画です。

北海公園の壁にある龍の装飾
北海公園の壁(影壁・照壁)にある龍の装飾

上海豫園の壁の龍

上海の名所旧跡・豫園の象徴の龍の壁です。その姿から「穿雲龍牆」(雲をうがつ龍の壁)と呼ばれています。まるで本当の龍が空に昇っていくかのようです。

豫園の壁にある龍の装飾
豫園の壁にある龍の装飾

杭州西湖のドラゴンボート

ドラゴンボート(龍をかたどった船で競い合う習俗)は屈原伝説と結びつき、入水した屈原を助けようとした民衆の姿が始まりと言われていますが、実はもっと古い時代から水神や龍神への祭祀として始まったようです。

観光用のドラゴンボート
観光用のドラゴンボート

さまざまな場所で吉祥のシンボルに

龍は吉祥のシンボルとして遙か昔、紀元前から装飾品などにその姿が刻まれています。水の支配者として皇帝のシンボルとして、またおめでたいものや中国文化のシンボルとしても龍は使われています。

屋根にある龍の装飾
屋根にある龍の装飾

龍を使った成語

龍を使った成語はたくさんあります。

卧虎藏龙

“卧虎藏龙wò hǔ cáng lóng”(伏した虎に隠れた龍)

これは隠れた逸材という意味です。この題名で作られたカンフー映画『グリーン・デステニー』はアカデミー外国映画賞を取りました。

望子成龙

“望子成龙 Wàng zǐ chéng lóng”(子供に立身出世を望む)

“成龙”つまり龍に成るとは大物になるという意味です。ちなみに日本でも有名な香港の俳優ジャッキー・チェンは中国名を“成龙”と言います。彼はまさに映画界で大きな龍になりましたね。