中国語の翻訳のコツ・翻訳家という職業について

中国語の翻訳

ここでは中国語の翻訳の仕事とはどういうことか、どういう仕事があるのか、報酬やそれで生計を立てることができるかなどについて、また翻訳する際の学習方法やコツについて書いていきたいと思います。

中国語の翻訳にはどういう仕事があるのか

中国語の翻訳とは、中国語から日本語に翻訳することを意味します。日本語ネイティブ(日本語が母語の人)が中国語関係の翻訳の仕事をするのであれば、基本は中国語から日本語への翻訳です。

中国語から日本語への翻訳にどういう仕事があるかと言えば、一般には業務翻訳、つまり契約関係の翻訳、製品の翻訳などで、一つ一つに高い専門性が求められます。機械関係なら機械に関する中日辞典が、医療関係なら医療に関する中日辞典が必要というような、手持ちの辞書では対応できないレベルの仕事がほとんどです。

学術書の翻訳、小説の翻訳などこれぞ翻訳のだいご味と思われるような仕事もないわけではありませんがきわめて限られていて、これらの仕事は一般に個人のツテ・人脈などで入ってきます。

どうやって翻訳の仕事を見つけるか

翻訳の仕事の見つけ方としては、一般にはネット上などに翻訳関係会社が募集を出していますのでまずそこに問い合わせをします。履歴書を送るとトライアル(お試し)の中国語文章が送られてきますので、それに応じます。合格となれば、採用先のオフィスに行くか自宅かで仕事をします。社員になって翻訳をするか、フリーとして請け負って仕事をするか、翻訳者の働き方はさまざまです。

翻訳だけで生計は立つか

翻訳だけで食べていけるかという問題ですが、中国語ではまず無理だと思います。他に生計を担う家族がいてアルバイト的にやっている人が大半でしょう。もちろん例外がないとは言えませんが。英語では翻訳専門家がいる、という反論があるかもしれませんが、英語と中国語では市場の大きさがまったく異なります。

もちろん企業の中で翻訳業務を担う人はいますが、業務の内容が翻訳だけならば派遣など非正規雇用者が大半だと思います。

フリーの翻訳者の場合一般には、中国語講師、通訳、翻訳などさまざまな仕事をしながら翻訳をしています。翻訳のみで安定した仕事を得るのはなかなか難しいのが現状です。

本を一冊訳した場合どのくらいの報酬が得られるか

翻訳者にとって一番やりたい仕事の一つは本の翻訳でしょう。願ってもなかなか得られる仕事ではありませんが、ツテを通して入ることもあります。その場合の報酬ですがケースバイケースです。無名の翻訳者の場合、名前を出す代わりに無償でと言われることもありますし、一人で訳したのに有名人あるいはより地位が高く本の売れ行きに影響がありそうな人の名前が表紙に書かれ、自分の名前は中表紙やあとがきに小さく出る、ただしお金はもらえるなどということもあります。本の売れ行きに関係がなく資金も潤沢なところから出す本の場合、名前も出せるし多額の翻訳料も出るということもあります。多額といっても最大50万円くらいです。

どうしても自分の好きな作家の翻訳を自分の訳で出したいという場合、自費出版で出すという人もいます。売れれば印税は入りますが、中国の小説はあまり売れませんのでたいした印税は見込めません。これは仕事というより趣味に近くなります。

翻訳の力をつけるには

上記したように翻訳で生計を立てるのは難しいですが、アルバイト的ならば仕事はあります。それを地道に誠実に続け、力もついてくれば本の出版などに結びつくということもないわけではありません。

それではそうした力をつけるのにどうしたらいいか、下にいくつか挙げたいと思います。

母語の力

一番大切なのは中国語より母語、つまり日本語の力です。中国語のレベルと日本語のレベルを比較するなら3:7くらいじゃないかと思います。翻訳とはそのくらい母語の力を必要とします。

では母語の力とはどうやってつけるのか。それは日本語の本を大量に読むことです。読書量と翻訳に必要な日本語力は完全に比例し、本をあまり読まなかった人が翻訳者になれるとはちょっと考えられません。

ある程度持って生まれたコトバへの興味とセンス、それに導かれる大量の読書とそこから得た適切な語彙…こうしたものがあってはじめて翻訳者の道が開かれると言ってもいいでしょう。

翻訳とはどれだけ中国語を読みぬけるか

翻訳に母語の力は不可欠ですが、と言って中国語力はたいしたことがなくても大丈夫かと言えばそんなことはありません。中国語の文章をどれだけ正確に読みぬけるか、書き手の意図を正しく捉えられるか、行間や背景にあるものを適切に把握できるかはとても大切です。これには中国語の知識だけでなく、中国の歴史、文化、社会などへの深い理解も必要になってきます。

書き手の意図どおりに文章を理解し、その姿を正確に構築してはじめてそこからの日本語がスタートするのです。

つまり翻訳とは中国語で語られた世界を日本語でそのままに再構築することです。

翻訳とは日本語による再構築・再創造

つまり翻訳とは中国語から日本語への置き換えではなく、中国語で語られた世界を形あるものとして正確にイメージし、それを日本語でそっくりそのまま再構築することです。最初の姿と再構築された姿が一致した時、その翻訳はうまくいったということになります。

そういう意味で翻訳とは日本語による再創造と言ってもいいかもしれません。

これは楽しい仕事とも言えますが一方で命を削るような苦しい仕事で、私もやったことがありますが、本を一冊翻訳すると命が数年縮まった気がします。そのくらい辛い仕事でもあります。

中国語の翻訳のコツ

うまく翻訳する上でのコツと言えば、中国語を書かれたとおりに理解できているか、理解出来たらその姿にもっともふさわしい日本語が出てくるかという上述したことに尽きるのです。

コツらしいことをなんとか挙げるなら、たとえばオノマトペ・擬音語や擬態語をうまく使うと自然で生き生きとした日本語になりやすいということがあります。中国語には擬音語はともかく擬態語は全くありませんが、日本語が大量に持つ擬態語や擬音語は、私たちの血潮に直接入りこんでくるような不思議な生命力を持っています。社会人の方への翻訳の授業ではよく「困った時の擬態語頼み」をアドバイスしています。