北京語と広東語の違い 【中国語の標準語と方言】

北京語と広東語の違い

北京語」とは一般に中国の標準語を指します。「広東語」は広東省や香港で使われている方言です。日本語に方言があるように中国語にも方言があります。中国の面積は日本の25倍ですから、方言と言っても日本の方言のレベルではありません。ここでは中国の標準語・方言などについて紹介します。

中国の方言

中国には広大な地域に23の省、5つの自治区、4つの直轄市があります。一般にこうした行政区域ごとにそれぞれ固有の言葉があり、かつてはお互いに言葉は通じませんでした。それは方言のレベルというものではなく完全な外国語状態で、たとえば北京語を話す人が上海に行って上海語を聞いても一言もわからず、上海の人が福建省に行き福建語を聞いても同じようにわからず、福建の人が広東省に行き広東語を聞いてもチンプンカンプンというものでした。つまり北京の人にとって上海語のわからなさと日本語のわからなさは完全に同等という状態です。

日本でも幕末の頃は東北の人と鹿児島の人とでは話がまったく通じなかったそうですが、東北人と江戸人ならそれなりに通じたでしょうし、鹿児島人と長崎人ならやはりある程度通じたでしょう。

中国は広く一つの省が日本と同じくらいの面積があったりしますから、別の省に行けば通じなくなるというのはわかるのですが、場合によると山のこちらとあちらでもまったく通じないということがわりに最近まであったと聞きます。

それでどうして一つの国なのだろうと思いますが、これらの異なる言葉を結び付けていたのが「漢字」です。音は違っても文字は同じでした。これが広大な中国を一つにしていたのです。

中国の標準語「北京語」

後漢・魏という北方の王朝が滅び、晋が南に移ってやがて南北朝時代になる頃から、「雅音」つまり詩や音楽に用いられる「正しい音」は北から南に移っていきました。

六朝時代は「南京官話」(官話とは「公用語」のこと)と呼ばれる音が当時の標準語でした。

隋・唐・宋・元・明を経て清朝になると北京周辺で話されている言葉を「北京語」と呼ぶようになり、雍正帝の時に「北京官話」(ヨーロッパ人はこれを「マンダリン」と呼びました)が標準語に採用されて全国に広まりました。中華民国時代には北京官話を基本とする「国語」が役所で使う標準語とされ、やがてこれが現代中国で使われている「普通話」(標準語)となっていきます。これを「北京語」と呼ぶこともあります。

中国の年表
中国の年表。

地方のなまりの標準語

標準語が行き渡るにつれ、若い人を中心に方言ではなく標準語、つまりかつての「北京官話」を話すようになったのですが、どこも同じ発音かというとさにあらず。外国人にとってはこれが標準語!と思うような土地のなまりを濃厚に残しています。特にそれぞれなまりの異なるいくつかの省の人たちが一緒にいる時は自分のなまりに気づくのでしょうが、地元の人だけですと自分になまりがあるとは気づきません。

たとえば「水を飲む」は標準語では“hēshuǐ”という音になるのですが、四川省の人の発音では“huósuī”と聞こえてきます。日本語で書くと「ハーシュイ」的な音が「フオスイ」となって、外国人にはまったくの別物です。ある時数人の四川省のグループにそう伝えますとビックリ仰天という顔をされました。彼らは自分たちが正しい標準語を話していると思っていたのです。

もしこれが方言でしたらきちんとルールを覚えてそれなりに学んでいけるのでしょうが、なまりのある標準語というのはルールが書かれている本があるわけではないので、外国人がこれを聞き取るのは至難と言ってもいいでしょう。

このなまりがキツイ地域が長江以南です。長江以南のなまりは、外国人だけでなく北方中国人もお手上げだと言っていました。それに比べれば四川省なまりはもともと北方方言に属する地域なのでほとんどわかるそうです。

北京の近くの山東省にもつよいなまりがあり、私には中国の名古屋弁のように聞こえます。北京語に比べると音がみな斜めになっている感じで、このルールに慣れると少し聞き取れるようになります。たとえば“一百”(百)という意味の“yìbǎi”(イーバイ)が“yìběi”(イーベイ)と聞こえてくるのです。

方言に慣れていくと、意味はわからなくても味わいはわかるようになります。長江以南なまりも四川なまりも山東なまりもそれぞれ味わいがあって、操れるようになったらいいなあとあこがれますが、まず無理でしょう。

卓球の福原愛ちゃんが話す中国語には東北なまりがあると言われますが、私には普通の標準語に聞こえます。やや舌が奥に入っている感じでここが東北的かなと思いますが、微妙でなんとも言えません。

以前北京の町を歩いていた時キャッチセールスをやっている二人の女の子につかまりおしゃべりを楽しみましたが、その時彼女たちの言葉に南方なまりがあったので「江蘇省から来たの?」と適当なことを言ったらこれが大当たり。なまりで出身地がわかるなんてすごい!と尊敬してもらった上に別れるのが名残惜しくなるくらい仲良くなりました。

それでも最近の若い人、特に大学を出た人はずいぶんきれいな標準語を話してくれるようになりました。最近知り合いになった留学生は江蘇省出身の人でしたが、南方特有のなまりがなく、北京なまり独特の舌がかなり口の奥に入る立体的な発音もなく、音の上げ下げが平板で、日本人にはきわめて聞き取りやすい中国語でした。

中国でも標準語が普及するにつれ、味わい深いなまりは消えていくのかもしれません。

以上、地方なまりの標準語について長々と書いたのは、中国人と中国語で交流する上で一番ネックになるのがこの「なまりのある標準語」だからです。手ごわいです……。

広東語とは

香港映画が好きな人は広東語会話を字幕で見ていることでしょう。香港で話されている言葉が広東語です。お隣、広東省の言葉でもあります。

かつては大陸の人が香港を訪れて北京語、つまり大陸の標準語を話すと馬鹿にされたと言いますが、今や香港の人も北京語を使うようになりました。

広東語と北京語の違いはなまり以前の問題、まったく異なる言葉です。広東語は独特の抑揚・リズムを持っています。香港の歌手は北京語でも歌いますが、広東語で聞いた方が魅力的かもしれません。

最近日本を訪れる中国語圏の人が増え、耳を澄ますとなんとなく「この人は台湾の人で台湾語…閩南語を話しているなあ」(台湾では「国語」いわゆる北京官話が標準語で、これ以外に元々台湾の人が話していた「台湾語」つまり閩南語などが話されています)とか「この人は広東語。雰囲気がスマートだから広東省ではなくて香港の人かなあ」とか「広東語にちょっと似ているけどベトナムの人かなあ」などと類推できるようになりました。