中国語の敬語・マナー表現

中国語の敬語

日本語にはたくさんの敬語があることで有名ですが、中国語にも敬語はあるのでしょうか。ここでは中国語の敬語の世界を紹介しましょう。

中国語の敬語

中国語にももちろん敬語はあります

中国語初級者が最初に学ぶ人称代名詞の第二人称に、“你”と“您”があり、この“您”が敬語です。しいて訳せば「あなた様」ですが、これでは日本語になりませんので、この単語が出てくる文自体を丁寧な表現にします。たとえば“你好吗?”(お元気ですか)を“您好吗?”とするなら「お元気でいらっしゃいますか」などのように。

また上の世代の親族呼称を使っても敬意を表せます。たとえば子供たちが警察官に対して

“警察叔叔”(お巡りさん)などと“叔叔”(叔父さん…父親の弟であるおじさん、または父親の弟くらいの年齢の男性)を使うと敬意が生まれます。これを“警察!”などと呼びつけるととても失礼というか喧嘩腰の言葉になってしまいます。“警察”は「巡査」という意味なのですが呼びかけには使えません。大人が警察官に呼びかけるなら“警察同志”とか“警官”になるでしょう。

電車の中で中年の女性が老年の女性に席を譲るならまず“阿姨”(叔母さん…母親の妹であるおばさん、または母親の妹くらいの年齢の女性)と呼びかけ、それから“您坐吧”(どうぞお掛けください)などと言います。日本で他人に「おじさん」「おばさん」と呼びかけると、親しみを持ってもらえる可能性と失礼な感じを与える可能性の両方があり、まず躊躇するのが普通です。中国では見知らぬ他人であっても親族呼称で呼んで自分の親族ワールドに入れることが敬意の表れなのです。この際相手は必ず年上です。

こうした親族呼称を外国人が使ってもいいか。これは微妙です。外国人が敬意をもって見知らぬ人に声をかけるならば“这位先生”(こちらの男性の方)、“这位女士”(こちらの女性の方)と呼びかけたり、“请问”(すみません、ちょっとお尋ねします)などと言うとよいでしょう。

マナーとセットになった表現

上記のような表現以外にマナーとセットになった表現があります。これも広義の意味では敬語と言ってもいいかもしれません。たとえば“你好!”(こんにちは・はじめまして)、“谢谢!”(ありがとうございます)“不客气!”(どういたしまして)などの単なる挨拶言葉も中国語では一種の敬語表現と言ってもいいでしょう。日本人に比べるとこうした挨拶表現・マナー言語をあまり使わない人が多いので、こうした表現をよく口にする人に会うととてもエレガントな感じがします。では中国人はどう感じるかというと、日本人が口癖のようにこうした言葉を口にするのを見て、「ホントに礼儀正しい!」と感嘆する人が多いです。一方で「あれは口だけ、うわべだけ、お腹は腹黒い」などと非難する人もいます。日本人にとってはこうした言葉は単なる習慣でまさにうわべだけ、つまり礼儀とはそうしたものだと思っているのですが、中国人は一般に言葉というものは心底思って口にするものと考えているので(思ったことをそのままポンポンと言う人が多い)、言葉はマナーあってこそと考える、あるいは習慣化している日本人とはずれるところがあります。

中国語の中には、上記のような挨拶語よりずっと深く習慣化されたマナー言語もあります。たとえば、お客さんは必ず見送るのが中国の習慣ですが、こうした時“请留步”(どうかそのまま)などと言います。また帰る人に“您慢走”(どうぞお気をつけて)と言います。これらは聞いていてとても美しい言葉で、敬語と言ってもいいでしょう。これらの挨拶語・マナー言語も習慣化された言葉だと思うのですが、中国人はこれに対してうわべだけとは言いません。深く根付いた言葉だからでしょう。逆に言うなら“你好!” “谢谢!” “不客气!”などはやや新しい風習でいわばバタ臭さが残っているのです。もっともそう感じる人はどんどん減っているかもしれません。80年代、90年代生まれの中国人はどんどん洗練されつつあるので、いずれ新しい敬語表現がもっと増えていくような気がします。

「~していただけますか?」という敬語表現

“请~”は「どうか~してください」という意味の「プリーズ」に似た言葉で、他者への敬意を表す言葉として使いますが、一種の使役表現・命令表現でもあります。日本人は「~してください」の訳としてよく使ってしまいますが、 “请~”より“能不能~?” “可不可以~?”(~していただけますか?)の方がずっと丁寧に敬意を表すことができます。もちろん「どうぞこちらへ」などと言う時は“请~”で大丈夫ですが。

私は中国に行くとつい“可不可以~?”を使ってしまうのですが、そうした時「ホントに礼儀正しい人だねえー」と感嘆の表情で見られたりします。日本語の習慣を無意識に中国語にしているだけなのですが、日本語というのはよくよく礼儀正しくできた言葉なのでしょう。アメリカでも拙い英語をしゃべっていると「あなたはしょっちゅうサンキューって言っているね」と言われたことがあります。私の英語では「ありがとう・すみません」の類がみなサンキューになってしまうのです。こう言われてあらためて英語に変換する前の日本語を検討すると、日本語の半分は人への敬意を表し、意味としては実体を持たないマナー言語だと思ったものです。

つまり中国人は(たぶんアメリカ人も)敬語なしで(日本人からするとかなり不作法に)しゃべるのです。ペットボトルを渡されて「えっ私に…いいんですか?」的に使う“可不可以~?”を中国人は知り合い相手にほとんど使いません。何と言うかと言えば、何も言わずにごくごく飲むのです。“谢谢”も言いません。相手もそれを気にすることはありません。

逆に日本人は、中国人が“谢谢”を言うべきところで言ってくれないと不愉快になりますが、相手は一般にまったく悪気はありません。つまり中国人がマナー言語や敬語を使うとか、逆に日本人が中国人に敬語を使うという場面は、それなりにもっと重い状況で使うのだと考えておく必要があります。

ビジネスの場では敬語が復活

上記のように中国の普通の人間関係では実にざっくばらんで、敬語なんてほとんど使わないのですが、これがビジネスになると一変します。初めて会った相手に“久仰大名” (ご高名はかねがね)などと挨拶したりします。こうした表現は最近できたものではなく、新中国成立前にすでに存在していた言葉です。社会主義中国で身分関係を強調するような表現は長く嫌われていましたが、改革開放時代を迎えて旧社会に存在していたいわば資本主義社会時代の言葉が復活しつつあります。これは今後増えることはあっても消えることはないでしょう。