中国茶 【種類と茶器】
Tweet中国茶は昔から、緑茶・白茶・黄茶・青茶・紅茶・黒茶の6種類に分類されてきました。また、それ以外にも花茶などの香りづけによる分類もあります。
ここでは中国茶の種類や茶器、製造方法、茶芸、茶館などについて紹介します。
中国茶以外も含めたお茶の種類や歴史については「お茶の種類と歴史」のページで詳しく紹介しています。
目次
- 1. 中国ではどんなお茶が飲まれているか
- 2. 6種類の中国茶
- 3. 中国茶の茶器・茶道具
- 4. 茶芸と茶道
- 5. 茶館
中国ではどんなお茶が飲まれているか
中国で飲まれている茶の代表は烏龍茶…ではありません。緑茶です。烏龍茶は台湾でよく飲まれているお茶で、「青茶」とも呼ばれます。中国茶には青茶のほか緑茶・黄茶・白茶・黒茶・紅茶などがあります。白茶?黒茶?いったいどんなお茶なのでしょうか。まずはこのカラフルなお茶の分類法とそれぞれのお茶について以下に説明しましょう。
6種類の中国茶
中国茶は茶葉の色によって、緑茶・白茶・黄茶・青茶・紅茶・黒茶の6種類に分けられます。
さらに緑茶に香りをつけた「花茶」を入れて7種類とする分類もあります。
この6種類のお茶は「発酵」させてあるかどうかが分類の大きなポイントです。
ちなみに一般的な意味での「発酵」とは「微生物の働きで有機物が分解され特定の物質を作り出すこと」で醸造酒やみそ・醤油、納豆、ヨーグルトやチーズはこの発酵作用によって作り出されたものです。
ところが茶の「発酵」とは微生物とは無関係に、「茶葉の中で水や酸素が加わって変化する化学反応」のことなので、実は「発酵」ではありません。ただし黒茶だけはこの微生物による「ホンモノの発酵」が行われていますので、それについては後ほど(「黒茶」の項で)説明します。
要するに茶については「発酵ではない」のに昔から「発酵」という言葉を使ってきたので、今も「発酵」という言葉を使っているということです。
そこで6種類の茶に戻りますと、発酵…すなわち「水や酸素による化学反応」が起きているかどうかで、お茶の種類が分かれるのです。
緑茶……発酵なし
白茶……半発酵茶(弱発酵)
黄茶……半発酵茶(弱発酵)
青茶(烏龍茶)……半発酵茶(重~中発酵)
紅茶……完全発酵茶
黒茶(プーアル茶)……後発酵茶(自然酸化ではなく、菌の作用で発酵させたお茶)
緑茶も烏龍茶も紅茶も実は原材料は同じもので、この化学反応を起こさせるかどうか、この化学反応が強いか弱いかで枝分かれしてくる…というわけです。
緑茶は緑茶の木から、烏龍茶は烏龍茶の木、紅茶は紅茶の木から採れるのかと思っていたらさにあらず。作る工程であんなに味が変わってくるとはびっくりです。
普通はほっとくと化学反応が起きてしまうので、緑茶の場合煎って(日本の緑茶は蒸して)茶葉の酸化酵素をなくしてしまうと酸化が止まり緑色のお茶・緑茶になります。この酸化を完全に進めると紅茶になり、途中で止めると烏龍茶になります。
日本茶の場合ほとんどが緑茶ですが、中国茶は上記のように6種類あるいは7種類の茶が作られ飲まれているので、これらについてその製造工程や飲み方・産地などを説明していきましょう。
緑茶
日本茶の緑茶と中国茶の緑茶には違いがあります。
緑茶には「殺青」(熱を加えて発酵を止める)という作業があるのですが、日本の緑茶と中国の緑茶を比べた時、日本の緑茶の「殺青」では蒸して熱を加えるのに対し、中国の緑茶は炒って熱を加えます。そのため中国緑茶は香ばしい香りがしたりします。
白茶
白茶(はくちゃ)は、「白毫」(はくごう)と呼ばれる白い産毛が生えた葉で作られる半発酵茶(発酵度10%)です。
日本では聞きなれないお茶の名前ですが、実は中国では昔からあるお茶で、北宋第8代皇帝・徽宗(きそう 1082~1135年 芸術的な才能に恵まれていたが政治的には無能だったことで有名)は白茶の銘品「白毫銀針」(はくごう ぎんしん)を愛飲したと言います。
黄茶
黄茶(おうちゃ)とは、白茶同様、発酵度の弱い半発酵茶です。茶葉も黄色く茶湯も黄色い、というのが黄茶の特徴です。味わいとしては緑茶に似た上品な味わいです。生産量が少ない、とても貴重なお茶です。
青茶
青茶(せいちゃ)とは烏龍茶のことです。茶葉が青みを帯びた濃い褐色なので「青茶」と呼びます。
緑茶は発酵させないで作るお茶、紅茶は完全発酵させて作るお茶ですが、青茶・ウーロン茶はその中間の半発酵茶です。紅茶の芳醇な味と香り高さを持ったお茶と言われています。
紅茶
紅茶もまた中国から伝わってきています。ちなみに英語で「紅茶」は「ブラックティ」。レッドティではありません。加工後の茶葉の色から「黒い茶」と名付けたと言います。
紅茶がいつごろ生まれたのかについてははっきりした資料がないのですが、17世紀以降、福建省の武夷山の桐木村(トンムー村)で作られたと言われています。ただし意図的に発明したのではなく、山まで茶摘みに行き、遠い道のりを運んでくるうちに茶葉がしおれて酸化発酵し、それをしっかり揉むことで全発酵の紅茶がたまたま生まれたのではないかと考えられています。
黒茶
黒茶とは製造の過程で微生物を加えて発酵させるお茶のことで「後発酵茶」に分類されます。白茶・黄茶・青茶・紅茶は「発酵させた茶」と言っても微生物にはよらず、本来の意味では「発酵」ではないのですが習慣的にそう呼んでいます。ところが黒茶だけは言葉本来の意味で正しい「発酵茶」・「微生物を介在させる発酵茶」です。
黒茶は茶葉が黒褐色なので黒茶と呼ばれます。発酵茶ですので、ワインのように年月が経って熟成させたものほど味や香りが良くなり、価値も高くなります。
花茶
中国茶を7分類した時の7番目の茶が「花茶」です。
花茶とは、緑茶などに花の香りをつけたお茶のことで「名香片」とも呼ばれます。お茶に花の香りをつけたものや、花を乾燥させたものをお茶にブレンドしたものなどがあります。
花茶の中で最も有名なのが「茉莉花茶」(まつりかちゃ・ジャスミン茶)で、このほか玫瑰花茶(めいくい はなちゃ・バラ茶)や桂花茶(けいかちゃ・金木犀茶)があります。
工芸茶
「工芸茶」とは中国語で「芸術茶」または「特殊工芸茶」とも言いますが、茶葉と食用花卉(かき…草花)を原料とし、形を整えたり縛ったりなど加工を施して2センチほどの球形にし、これに熱湯をかけると茶湯の中で花が開くように見える茶のことです。
中国茶の茶器・茶道具
中国茶に使われる茶器・茶道具は形といい歴史といい魅力あふれるものです。
ここではよくつかわれる茶器・茶道具を紹介しましょう。
茶壺
茶壺……いわゆる「急須」のことです。形も品質もさまざまですが、一般には小ぶりのものが多く、これは1回で飲み切るためです。中国茶、特に青茶や黒茶を飲むのにふさわしいと言われているのが「紫沙壺」です。これは宜興の紫沙土で作るもので、宋代から明代の頃作られたと言われています。
茶杯
茶杯……「湯飲み」のことですがこれも一般には小ぶりです。陶器やガラス製。
蓋椀
蓋椀……蓋つきの湯飲みのことで、茶たく・茶碗・蓋の3点セットになっています。白磁製・陶器製・ガラス製のものがあります。茶杯と比べるとやや大きめで、蓋椀から直接飲むこともあれば、蓋椀から別の茶器に移して飲むこともあります。
聞香杯
聞香杯……お茶の香りを楽しむためのもので、公道杯から聞香杯へとお茶を移し、その後、聞香杯から茶杯へと移します。主に台湾烏龍茶で使用されています。
茶荷
茶荷……茶を入れる際、臨時に茶葉を入れておくものです。竹・木・磁器・陶器などからできています。愛らしい形をしています。
公道杯
公道杯……客人の茶湯の濃度を調整する時に使います。ガラス製・白磁・紫沙など。
随手泡
随手泡……いわゆる「やかん」で、「南部鉄瓶」のように火にかけてお湯を沸かします。
茶寵
茶寵……お茶を飲むときのマスコットのようなもので、お茶をかけて楽しみます。
茶托
茶托……いわゆる「茶たく」です。茶碗の熱でテーブルを傷つけないようにするものです。
茶則
茶則……茶葉を茶缶から出すのに使います。
茶杓
茶杓……茶葉を茶則から茶壺などに移動するときに使います。
茶挟
茶挟……茶器や茶葉を挟んで持つ際に使います。
茶針
茶針(茶通)……茶壺に茶葉が詰まったときに使います。
茶巾
茶巾……「ふきん」のことで、やかん類の外側を拭く時などに使います。
茶缶
茶缶……「茶筒」のことで、茶葉を保存するための容器です。
茶盤
茶盤……茶具を置いておくための「お盆」のようなものですが、下に受け皿のようなものが付いており、冷めた茶などを捨てられるように簀の子状になっています。
中国茶の入れ方の特徴
中国茶の手順の特徴
中国茶は緑茶・白茶・黄茶・青茶・黒茶・紅茶・花茶など何種類もあり、それぞれ入れ方が異なり、また同じ茶葉でも器によってまた異なります。さらにたとえば日本ですとスタンダードというか基準になる淹れ方があれば、みな基本それに従うのですが、中国ではそういうことはあまりありません。我が道を行く人が多いのです。
一度伝統が途切れた
また茶を嗜むということが復活したのもそう古いことではありません。60年代から70年代にかけて「文化大革命」など政治の時代には、「茶を嗜む」などと言えばブルジョワジーで反革命だと命の危険もあったことでしょう。また国民すべてが政治に翻弄され、経済に力を注ぐこともほとんどできずにどんどん貧しくなっていって、多くの人がお茶を飲むのも贅沢、白湯を飲んでいた時代もあります。
それから40年中国人は経済にめざめ夢中で働いてどんどん豊かになり、近年やっと文化に目を向けるゆとりが生まれました。日本には茶道がある、世界中が認めている、あれは中国から伝わったものだ、自分たちにも本家本元の茶道があるではないか…。こうして再び茶の世界に戻るのですが、いったん途切れた伝統というものは復活させてもある種演じている感があって、ゆるぎなき正統性という厳粛さを感じさせるものではありません。
中国茶は味を追求する
また中国茶の作法は美食の国・中国のお茶らしく味を追求するものです。もちろん品位ある雰囲気も大切なのですが、それはあくまで二次的なもので、何よりどうしたら美味しく飲めるかが一番大切です。中国茶の淹れ方、その手順とはそれを味わうための手順なのです。日本の茶道が茶を飲む、あるいはそのための手順を通して美学、さらにはある種の精神性を追求しようとする意識が強いのとは少し異なります(もっとも日本の茶道のお師匠さんたちすべてにそうした求道者意識があるかどうかは疑問ですが)。
中国茶・緑茶の入れ方
それではここでは緑茶の入れ方を2種類紹介します。
1:茶道具を準備し、熱湯を急須に注ぐ。何回かゆすった後、各茶碗にその湯を注ぐ。茶碗を回してから「茶盤」に捨てます。こうして茶器をきれいにするとともに温めます。
2:緑茶の茶葉を茶荷(ちゃか)から急須に入れます。
3:熱く沸かした湯をまずは時計の針と逆方向に動かして急須に注ぎ、次にまっすぐそそぎ、最後に手首を動かしてそそぎます。つまり3回に分けて湯を急須に入れるのです。
4:3分ほど置いてから各茶碗につぎます。
1:茶碗の蓋をちょっと右側にずらして少量の熱湯を注ぎます。右手で蓋をやや傾け、蓋と椀を指で支えて持ったまま、軽く3回回し蓋と椀の隙間から湯を捨てます。
2:茶荷の茶葉を茶碗の中に入れます。
3:沸騰した湯を茶碗の内側の壁に沿って茶碗7~8分目注ぎますが、茶葉に直接かけないようにします。
4:湯を注いだら蓋を急いで斜めにずらして置き、蓋と茶碗の間に一定の隙間があるようにします。
茶芸と茶道
中国茶・台湾茶を飲むときに「茶芸」という言葉を聞くことがあります。
この「茶芸」とはもともとは「茶を飲むことによって精神修養をする」という意味ですが、宋代になると茶を入れる際の規範的な一連の動作を指すようにもなります。
明代後期になると、茶に対するこだわりはいっそう深まり、品質が高くて乾燥した茶葉・清浄な水・教養ある優雅な環境…が求められるようになりました。
今中国・台湾で行われている「茶芸」にはこうしたものすべてが含まれているようです。つまり閑雅な環境、質の高い茶葉と水、茶を入れる際の優雅な動き、そして全体を貫く一種の精神性です。
最近中国の茶の専門書で「茶道」という言葉を見ましたが、これは「茶道」(さどう)と読むよりは「茶の道」と読んだ方がいい言葉かもしれません。中国では古来茶の精神性が尊ばれ、それを指す言葉が今使われている中国語の「茶道」ではないかと思います。
一般的に「茶道」(さどう)と言えば世界的に見ても、村田珠光から始まり千利休が完成させた、日本固有の美学とも言うべき「侘び寂び」(わびさび)と結びついた一種の哲学、あるいは美学を内包した「日本的な茶の世界」を意味します。
ただしこの「日本的な茶の世界」は、唐代の陸羽が最初に伝え、宋代に禅宗と結びついて発展した「中国茶の精神性」を受け継いだものと言えるでしょう。
「中国茶の精神性」は日本に伝わって独自の茶の世界に変化・発展し、日本人の生活スタイルや美意識に影響を与え続けてきました。今中国でも人気の「無印良品」のポリシーなどは、まさにこの日本的茶道の世界観にインスピレーションを受けたもののように見えます。
本場中国では、戦後中国共産党の統治下で「茶の精神性」などは排斥の対象ですらありましたが、近年経済の発展とともに再び中国人の関心を集めつつあります。
茶館
日本の町のどこにでも「喫茶店」・「カフェ」の類がありますが、明治以前これらは「茶屋」・「茶店」などと呼ばれていました。
中国には同様の店を「茶館」と呼び、唐代に始まり、宋代には大にぎわい、その後元から明にかけて衰退、明末清初に復活、清末から1970年代末まで約百年間茶館は中国の町から消えてしまいましたが、1990年代後半ごろから北京など中国北方で復活、瞬く間に人気を得、やがて全国各地に広まっていき、中国各地に特色ある茶館が現れました。
茶館では茶を味わうとともに、場所によっては「評書」(日本の「講談」のような話芸)や曲芸などを楽しむことができます。