青茶

青茶

青茶せいちゃ」というお茶の名前は日本では聞きなれないかもしれませんが、この「青茶」というのは烏龍茶のことです。

中国茶は、「青茶」「緑茶」「白茶」「黄茶」「紅茶」「黒茶」の基本6種類に分類されますが、ここではそのうちの「青茶」について、歴史や作り方、産地、有名なものなどを紹介します。

青茶とは

青茶

青茶(せいちゃ)とは基本的に烏龍茶のことです。茶葉が青みを帯びた濃い褐色なので「青茶」と呼びます。

ただ言葉の使い方として中国大陸と台湾ではやや異なり、中国大陸では上の説明のとおりなのですが、台湾では青茶の中に烏龍茶が属するという扱いです。青茶がこの種のお茶の代表名で、そこに烏龍茶も入っているということです。

青茶とお茶の種類

緑茶は発酵させないで作るお茶、紅茶は完全発酵させて作るお茶ですが、青茶はその中間の半発酵茶です。

中国茶は発酵の度合いなどによって以下の図のように緑茶・白茶・黄茶・青茶・紅茶・黒茶の基本6種類に分類されています。

お茶の種類

青茶が烏龍茶と呼ばれる理由

緑茶は緑茶、紅茶は紅茶なのに、青茶はなぜ「烏龍茶」とも呼ばれるのでしょうか。これに関してはいくつかの伝説が残っています。

伝説1

清朝の雍正年間のことです。福建省安渓県西坪郷南岩村に退役した将軍が隠棲していました。彼は狩猟の名手で、姓を蘇、名を龍と言いました。色黒でがっしりとした体つきだったため、村人たちは彼を「黒い龍…烏龍(ウーロン)」と呼びました。ちなみに中国語の「烏」には「カラス」という意味と「黒い」という意味があります。

あるこの烏龍将軍がいつものように猟銃を背中に猟や茶摘みに山に登りました。やがて大きなヘラジカを仕留め、大喜びで家に持ち帰り美味しく食べたのですが、摘んだ茶のことをすっかり忘れてしまっていました。翌日それを思い出し急いで籠から茶を取り出すと、一晩放っておかれた茶は縁が赤くなって芳香を放っています。そのまま茶作りを始めると、香り高く芳醇な味で苦みのない実にうまい茶ができあがりました。これを村人にもふるまうと皆うまい、うまいと絶賛します。そこで皆にその作り方を教えますと、この茶の評判は遠く他の地方にも伝わり、やがてここの村人は茶作りで生計を立てるようになりました。

やがてこの茶は烏龍将軍の貢献を称えて「烏龍(ウーロン)」と名付けられ今に至っているということです。

伝説2

同じ福建省安渓にはまたこんな話も残っています。

安渓県にある茶園があり、そこの主がある日、陽にさらした茶葉をひっくり返していると突然まっ黒な龍が現れたというのです。びっくりした主はその後恐ろしくてしばらくその場に近づけませんでしたが、数日後びくびくしながら行ってみると、置いたままだった茶葉が酸化して緑色ではなくなっていました。ところが味わってみるとなんとも美味しい。そこでこのお茶に「黒い龍の茶」つまり「烏龍(ウーロン)」と名付けたのだそうです。

いずれも「黒い」という意味に「烏」という文字を当てていますが、いわれとしては伝説1の方がよく知られています。

青茶の製造工程

青茶の製造

青茶の製造工程は、6種類の中国茶の中で最も複雑で時間もかかります。

青茶の製造工程

萎凋(いちょう)…葉を摘んだ後室内または室外で晒して水分を飛ばし、少し発酵を進めること。

揺青(ようせい)…揺青機に入れて揺する。葉片がぶつかり合うことで酵素の酸化を促し、しばらく置いておくことで葉の縁が赤くなり、真ん中は黄緑色になる「緑の葉を赤く縁どる」烏龍茶特有の変化が起き、この過程で香り高く味わい深い味になる。

炒青(しょうせい)…炒青機で茶に含まれる酵素を壊し、茶葉が赤くなり続けるのを防ぐとともに青臭さを取り除く。

揉捻(じゅうねん)…茶葉を揉んで成型する

烘焙(こうばい)…茶葉に残った水分をとばす。

青茶は上記のような工程を経て作られます。

台湾における「青茶」

台湾では「半発酵茶」すべてを「青茶」と呼び、青茶の一つとして「ウーロン茶」があるという扱いです。つまり大陸のように「青茶」イコール「ウーロン茶」ではないということです。

もう一つ台湾だけの呼び名として、台湾のウーロン茶の一種「四季春茶」を「青茶」とも呼びます。

台湾では日本による統治時代より更に昔、清朝の統治を受けていた時代には、お茶といえば包種茶とウーロン茶で「北の包種、南のウーロン」と呼ばれていました。この「包種茶」は「清茶」とも呼ばれ、主に台北の文山エリアで栽培されていました。

台湾にはこの「清茶」・「包種茶」と似たお茶に「四季春茶」というものがあり、この「四季春茶」を「清茶」に対して「青茶」とも呼びます。

台湾の青茶「四季春茶」とは

文山の包種茶は発酵度が低くて緑茶に近く「清茶」とも呼ばれているのですが、一方台湾の青茶「四季春茶」は「輝仔茶」とも呼ばれ、茶農の張文輝さんが山の中で偶然見つけた茶種です。この品種は抗寒性が高く、生産量も多く、一年に7~8回摘むことができるのでそこで「四季春茶」と名付けられました。

た。「四季春」という茶樹から摘まれる茶葉は、包種茶・「清茶」の軽発酵製作過程でできる茶葉に似ているのでこれを「青茶」と呼ぶのだそうです。このお茶は香りも高く、場所をあまり選ばず、冬の茶葉休眠期も短いので茶農にとってはありがたい茶種で、そこで台湾では最もよく見られる茶樹となりました。

四季春茶は低価格帯の茶葉ですが、決して味の悪い茶ではなく味わう価値のあるお茶だということで、日本での評判も悪くありません。

大陸の「青茶」と台湾の「青茶」にはずれがある

一般には「青茶」といえば「ウーロン茶」のことなのですが、上記したように大陸と台湾ではその認識にややずれがあると知っていれば、台湾のお茶好きの人とおしゃべりをした時に混乱しなくていいかもしれません。

有名な青茶とその産地

青茶は産地によって何種類かに分けることができます。以下にその種類と代表的な銘柄を挙げます。

閩北烏龍…福建省北部の烏龍茶…武夷岩茶・水仙・大紅袍・肉桂など。

閩南烏龍…福建省南部の烏龍茶…鉄観音・奇蘭・水仙・黄金桂など。

広東烏龍…広東省の烏龍茶…鳳凰単樅・鳳凰水仙・嶺頭単樅など。

台湾烏龍…台湾の烏龍茶…東方美人茶・凍頂烏龍・包種茶など。

大紅袍(だいこうぼう)

大紅袍
大紅袍。

福建省北部の武夷(ぶい)山で採れる茶です。武夷の岩からしみ出るミネラルを含み、岩韻と呼ぶ岩茶独特の味や香りを持ちます。ここで採れるお茶は他にも「鉄羅漢」(てつらかん)などがありますが、大紅袍はこの武夷岩茶の王様的存在で「武夷茶王」とか「茶中状元」とも呼ばれます。「状元」とは中国伝統の試験制度・科挙の中でトップの成績をおさめた人のことです。

この茶の原木は樹齢数百年とも千年とも言われ、4本(6本という説も)しか残っていないため、この原木の茶が一般には出回ることはなく知る人ぞ知るという名茶です。今一般の人が飲むことができるのはこの原木に接ぎ木した木から摘んだお茶です。

大紅袍伝説

このお茶の名前「大紅袍(大きくて赤いガウン)」にも次のような伝説が残っています。

昔ある若者が科挙の試験を受けるのに上京しようと旅を続けていたところ、福建省の武夷山で病に倒れてしまいました。この地の寺の和尚が茶を入れて飲ませると元気を回復しました。その後この若者は科挙の試験で状元・トップ合格者となり、なんと皇帝の娘の婿に選ばれました。

ある春の日、彼は自分を助けてくれた和尚にお礼を言おうと武夷山に登りました。その後状元は和尚の案内で「九龍窠」という名の急峻な渓谷に行くとその絶壁にはいく株かの大きな茶の木が生えています。

和尚が状元に「去年あなたが病に倒れた時お入れしたのはこの茶の木を摘んで作った茶です。昔は春が来ると何匹もの猿を呼び集め赤いズボンをはかせ、この絶壁を這わせて茶葉を摘んだものです。この茶は万病を治すことができるのです」と言いました。

状元はこれを聞き箱にこの茶を詰めさせて皇帝に献上しますと、ちょうど皇后が腹痛に苦しんでいるところでした。そこでさっそくこの茶を飲んでいただくとたちまちにして快癒しました。

皇帝は喜んで大きな赤い袍(ガウン)を状元に渡し、これを褒美として武夷山に持っていくよう言い渡しました。状元は再び武夷山に登り、この山の木こりに命じてその赤い袍を絶壁に生える茶の木にかけさせました。

その後その袍を持ち上げるとあら不思議、茶の木の芽が真っ赤に色づいていました。人々はそれを見てこれは大紅袍の色が茶葉に移ったのだと言い交わしました。

その後この茶の木を「大紅袍」と呼ぶようになり、この岩壁に「大紅袍」の文字を刻み、これ以後「大紅袍」は毎年朝廷に献上されるようになったということです。

大紅袍の効能

常飲すると白くきめ細やかな肌になると言われています。

安渓鉄観音(あんけい てっかんのん)

福建省南部の安渓で生産されている銘茶で、金木犀のような香りが特徴です。年に4回作られますが春茶が最もおいしいと言われています。

凍頂(とうちょう)烏龍茶

台湾を代表する青茶で「茶中聖品」とも言われています。中国大陸の青茶より発酵度が低く(40%)飲みやすいお茶です。生産量が少ないのできわめて貴重なお茶です。

主な産地は台湾南投県鹿谷郷、海抜700メートルの凍頂山です。南国台湾で海抜700メートルに過ぎないのに「凍頂」とはこれ如何に?いくらなんでもてっぺんが凍ることはないでしょう。実は、元は「崠頂」と言っていたそうでこれは「頂上」という意味。同じ音なので「凍頂」になったのだとか。

この山は土質が良く、「青心烏龍茶」など良質の茶木がよく茂ります。凍頂山の烏龍茶は「晒青・涼青・揺青・炒青・揉撚・初烘・包揉・複烘・焙火」などの工程を経て作られます。かつては台湾を代表する烏龍茶でしたが、近年はトップの座を「高山烏龍茶」に譲っています。

阿里山(高山)烏龍茶

標高1000メートルを超す高山で栽培されている茶なのでこう呼ばれています。

1980年以降に開発された茶栽培地域で生産され、現在では台湾烏龍茶のトップ銘柄となっています。元は阿里山一帯で栽培されていましたが、現在では栽培エリアが広がり、梅山・梨山・杉林渓・奇萊山・福寿山などでも栽培され、銘柄としてはこれらの産地名でも呼ばれています。

この烏龍茶はほとんど焙煎されず、発酵度も弱く、金木犀のような香り、芳醇な味で、4~5月の「春茶」、11~12月の「冬茶」が特に美味しいと言われています。

東方美人

東方美人茶はまたの名を「膨風茶」ともいいます。『茶葉全書』を書いたウイリアム・烏克(漢字名)はこの茶を台湾茶の代表としています。これを飲むと蜜のような甘味が広がり、イギリス女王はこの茶に「東方美人」と名付けました。

「膨風茶」という名前の由来は戦前の日本統治時代に戻ります。北埔(台湾北部の新竹県)産の茶が色艶も香りも飛び抜けて優れていたため、第13代台湾総督が日本に帰国する前に高値で大量に買いました。この話が伝わるやみな「膨風」(大ぼら)だと笑ったのですが、翌日の新聞を読んで事実であることが判明。そこで「膨風茶」(大ぼら茶)と呼ばれるようになったと言います。これがエリザベス女王のところに行くと「東方美人」となるのですから、名前の威力や大です。「膨風茶」ではお腹が破裂しそうで誰も買いません…

ともあれこの茶は1920年代から土壌や肥料、栽培など研究・改良を重ねて作られた苦心の茶葉でした。この茶の製造に早くからかかわった姜瑞昌は客家出身、この一族の家は今も北埔に遺されています。

文山包種茶(ぶんざん ほうしゅちゃ)

別名「清茶」とも言います。台北の文山区で採れます。

春摘み(3月中旬から5月上旬)の春茶と冬摘み(10月下旬から11月中旬)の冬茶の評価が高いお茶です。茶葉の色は深い緑色で、蘭の香りが長く続き甘い味がします。水色(すいしょく…湯を注いだ後の茶湯の色)は黄緑色。

緑茶に近い弱発酵のお茶です。150年ほど前に福建省安渓県で作られ、その当時は茶葉を紙で包んだのでこの名がついたと言われます。その後台湾に入り、改良が進み今の包種茶となっています。

青茶の入れ方

ここでは青茶の入れ方を紹介しますが、中国の茶器の名前と使い方に関しては「中国茶」のページで詳しく紹介しているので、そちらをご覧ください。

青茶の入れ方

1:95度くらいのお湯と茶葉(湯:茶葉が20:1になるように)を用意します。

2:急須にお湯を入れ温めておきます。

3:急須のお湯を公道杯(ピッチャー・陶器の水差し)に入れ温めておきます。

4:公道杯の湯を各茶碗に注ぎ茶碗を温めておきます。

5:茶葉を急須に入れます。

6:急須に茶葉が隠れるくらいのお湯を注ぎます。

7:それをすぐ公道杯にあけます。

8:高い位置から再びお湯を急須に注ぎしばらく置きます。

9:各茶碗の湯を捨てます。

10:3分ほどしたら急須のお茶を公道杯にすべて入れます。

11:公道杯のお茶を各茶碗七分目に注いでいきます。

12:残った数滴を1滴ずつ各茶碗に入れます。

※青茶の種類や茶具によって入れ方は多少変わります。