月餅

月餅

月餅げっぺい(げっぺい)とは中国の伝統的なお菓子で、毎年中秋節ちゅうしゅうせつ(陰暦の8月15日。満月を愛で家族団らんを楽しむ日)に食べたり贈り合ったりします。ここでは月餅の味・形・種類・歴史・中秋節に食べられるようになった経緯・材料・栄養・有名な月餅・日本の月餅などについて紹介します。

月餅の基本的な形と味

月餅

月餅はもともと、中秋節の日に月を愛で、家族団らんを楽しむお菓子なので「丸い」形をしているのが基本です。ただし最近はさまざまな形の月餅が売られています。味は、割りにあっさりした日本の和菓子やお饅頭と異なり、こってりとオイル感のある甘さが特徴で、餡の中にはナッツ類も入っていてズッシリ感があります。また甘いだけでなく、ミートパイやおかずパンのような月餅もあります。香辛料が独特で必ずしも日本人の口に合うお菓子ではなく、プレゼントする場合は味を確認した方がいいでしょう。

月餅と中秋節

月餅

「月餅」とは中国伝統の焼き菓子のことで、中秋節・陰暦の8月15日、爽やかな秋の夜空に月光が冴えわたる満月の日に食べます。クリスマスケーキと同じで、この日が過ぎると価値がなくなってしまいます。もちろん保存して食べることはできますが、贈り物などには使えません。

月餅は丸く、家族で分け合って食べるものなので一家団らんの象徴でもあります。

中国では中秋節の行事は「文革」(ぶんかく…1966~1976 中国全土で起きた一種の内乱の時代)という、あらゆる伝統文化が迫害を受けた時代にも春節とともに廃れることがなく、今では国定祝日として土日を入れて3日間の休みとなっています。

この行事が廃れなかったのは春節同様「家族団らん」の日だったからでしょう。昔も今も中国で一番大事なのは家族、そして家族の結束です。

月餅の歴史

月餅

昔は中秋節のお供え物でした。中秋節に月餅を食べる習慣は唐代に始まったと言われます。

唐の僖宗(きそう…862~888 21代皇帝)が中秋節当日に餅を科挙の合格者に賜ったという記述が『洛中見聞』にあります。

北宋の時月餅を食べる習慣が宮廷内で流行し、その後この習慣が民間に伝わりました。当時は「小餅」とか「月団」と呼ばれていました。

蘇東坡(そとうば…1037~1101 北宋の政治家・詩人 蘇軾そしょく ともいう)が『留別廉守』の中で「小餅如嚼月 中有酥和飴」(月餅は月を食べているようだ。中に乳製品や甘いものが入っている)と書いています。

明朝の田汝成は『西湖遊覧記』の中で「八月の十五日は中秋で、民間では月餅を贈り合う」と書いています。この頃民間にこうした習慣が流行していたことが伺えます。

清朝になると月餅の作り方が書かれた本が出版されるようになり、たとえば楊光輔の書いた本には「月餅は桃肉餡を包む」という記述があります。

清朝末期の『燕京歳時記』には「(中秋には)月餅がいたるところで売られている。大きなものは直径が1尺(32センチ)あまりもあり、月宮やヒキガエル、ウサギが描かれている。祭りが終わると食べる者もいれば、残しておいて大みそかの夜に食べる者もいる。それを団円餅と言う」と書かれています。

月餅の材料

月餅

月餅の主要な材料は、小麦粉・卵・砂糖・各種餡の材料・添加剤・保存料など。

月餅の主要な栄養成分と効能

月餅

主な栄養成分としては、タンパク質・不飽和脂肪酸・ビタミンEなど。

健康への効能としては、動脈硬化の防止や免疫力のアップなど。ただ甘くてカロリーが高いので肥満や糖尿病の人には避けた方がいいでしょう。

中国全土で愛される月餅

月餅

明朝以降、中秋節に月餅を食べることが全国民的な習慣となり、各地の食習慣と融合して、「広式」(広東風)・「京式」(北京風)・蘇式(蘇州風)・潮式(広東省東部地域風)などいろいろな月餅が生まれました。月餅は北も南も中国全土で愛される食品で、広い中国でこの現象は珍しいことです。

たとえば中国を代表する食品のように思われる「ギョーザ」は基本北方の食べ物で、南方ではあまり見かけません。これはギョーザが中国人にとっておかずではなく主食だということと関係しています。北方の主食は「面食」(粉もの)で南方は米。南方の人はかつて主食として小麦粉を食べる習慣はありませんでした。

月餅は「餅」と書きますがもち米を使ったお菓子ではありません。「餅」は「ビン」と読み、これは小麦粉をクレープのように薄く丸く伸ばして焼いたものを意味します。月餅も同じで小麦粉を使ったお菓子です。ちなみに中国語で「もち」は「年糕」と言います。

中国各地の月餅のうち最も有名なのは上記に挙げた「広式」(広東風)・「京式」(北京風)・「蘇式」(蘇州風)・「潮式」(広東省東部地域風)です。

中国四大月餅

地方色豊かな月餅のうち最も有名な月餅4種類を以下に紹介します。

広式月餅(広東風月餅)

広式月餅
広式月餅。

「広式月餅」は小麦粉・砂糖の蜜(砂糖・水・レモンのしぼり汁で作る)・植物オイル・鹹水(かんすい…天然ソーダ水)などで月餅の皮を作り餡を包んで作ります。

広式月餅の特徴は、油脂分が多く、皮が薄く、餡が多いこと。餡の材料はこの地域の特産であるココナッツ・オリーブの実・広東風ソーセージ・チャーシュー・塩味の卵の黄身など。さまざまな形の月餅があります。

京式月餅(北京風月餅)

広式月餅
広式月餅。

「京式月餅」は北方月餅の代表でさまざまな種類があります。この月餅は皮と餡の比率が2対3で、ゴマ油を使い、サッパリとした甘さやサクサク感が特徴です。北京の「稲香村」(有名な食品チェーン店。自前の工場も持っている)の「自来紅月餅」や「自来白月餅」「五仁月餅」などが代表的な「京式月餅」です。

「京式月餅」の物語に以下のような話が残されています。

昔、北京で伝染病が大流行したことがあり、広寒宮(月の中の宮殿)では嫦娥(じょうが…月に住む仙女)がそれに胸をいため、自分のために仙薬をついている玉兎(ぎょくと)にこの世に下りて病に苦しむ人々を救うよう命じました。これが有名な「兎児爺」(トゥールイェ…月を祭るための泥人形で少女の姿をしている)です。

兎児爺は紅白2種類の薬を用いて都中の人々の病気を治療し終えると月宮に戻っていきました。この2色の薬がやがて今日の「自来紅月餅」と「自来白月餅」になったのだそうです。

京式月餅の材料は、小麦粉・砂糖・ラード・植物オイル・氷砂糖・クルミ・ウリ類の種・モクセイ・青ウメ・サンザシゼリーなどです。

蘇式月餅(蘇州風月餅)

蘇式月餅
蘇式月餅。

蘇州月餅の特徴は皮がサクサクしていて、餡には「五仁」(クルミ・杏仁・ピーナッツ・ウリ類の種・ゴマを炒めたあとつぶして砂糖を加えたもの)やアズキ餡などが入っており、他の月餅より甘さが強いというものです。

潮式月餅(広東東部地域風月餅)

潮式月餅
潮式月餅。

潮式月餅は広東省の潮汕地域の伝統名菓です。皮が独特で渦巻式になっています。脂っこくなく甘さもしつこくありません。餡には緑豆餡・紫芋餡・水晶餡(豚肉の脂身に砂糖を混ぜて作る餡)や、卵の黄身や海鮮を包むものもあります。

月餅と反腐敗運動

月餅

以前中国の小説で、役人の子供が、中秋節に大量に父親宛てに贈られてきた月餅の箱に囲まれ、その箱を片っ端から開けているという場面を読んだことがあります。目的はおいしい月餅ではなく、箱の底に隠されている現金でした。

月餅を贈り合う習慣がわいろに結びついていると問題視されてからずいぶん時間が経ちますが、その後も黄金や白金でできた月餅が出回るなど腐敗がらみの話が尽きることがありませんでした。

2012年に、月餅の箱に月餅以外のものを入れてはならないという法律が、翌年には公費で月餅を買って贈り物にしてはならないという法律もでき、中秋節に月餅を贈る習慣は2年ほどぐっと下火になりましたが、2015年から再び増え始めているそうです。ただし「反腐敗運動」のニラミは効いていて、ごく普通の節句のプレゼントに戻り、また包装などもリサイクル可能な紙や金属になり、中国のニュースを読む限り「健康でエコな」習慣になっているようです。

中村屋の月餅

中村屋の月餅…よく見かけるお菓子ですが、和菓子とは一味違っていてときどき食べたくなります。あれが「月餅」と思っていたころ中国人から本場の月餅をいただき、あまりの味の違いにびっくりしたことがあります。「濃い…」「ニンニク味?」「肉入り!」「ゆで卵が入っている!」など…正直あまり口には合いませんでした。

あの中村屋の月餅とは何だったのか?

中村屋の月餅は昭和2年(1927)発売、約百年の歴史があります。店の近くにデパートが進出して商売に打撃を受けた頃、中国で出会った月餅と贈り物の習慣にヒントを得、起死回生を狙っての商品開発。日本人の口に合わせるべく試行錯誤を繰り返し、あぶらっこっさを除き、皮の口当たりを良くし、きれいな形にすることにもこだわり、できあがったのがあの月餅だそうです。

日本には日本風に解釈された「中国」なるものがたくさんあって、中村屋の月餅もそうですし、サントリーのウーロン茶のコマーシャルに出てくる「中国」もそうですね。素朴で清らかで透明感があって…

初めて中国に行った時あの「中国」が出てくるんだと思ってましたよ……

でも本場の中国も魅力的でした。サントリーのコマーシャルとは全然違っていたけれど。

というわけで今もときどきいただく本場の月餅、相変わらず濃いですが、だんだん美味しく感じるようになりました。