棗(ナツメ)

ナツメ

ナツメ(棗)なつめ科の植物で、その実を乾燥させたものは薬膳で古くから用いられ、栄養豊富なものとして知られています。

このページでは、ナツメの効能・栄養・レシピ・歴史・伝説などを紹介します。

ナツメ(棗)とは

ナツメ

ナツメとはなつめ科に属する植物で、その実を乾燥させたものには薬効があります。これを中国では「紅棗」(ホンザオ)あるいは「大棗」(ダーザオ)と言い、赤い色をしていて甘くてそのまま食べてもとてもおいしいものです。中国人はよく「貧血によい」と言いますが、他の食品…たとえばレバーや卵の黄身・納豆・ひじきなどに比べると必ずしも鉄分は多くありません。ただ体によい食品であることは確かで、中国ではかなり古くから薬効ある食品として食べられてきました。

ナツメ(乾燥前)
ナツメ(乾燥前)。
ナツメ(乾燥後)
ナツメ(乾燥後)。

ナツメの効能

ナツメ

ナツメの効能としては、上記した以外に、滋養強壮・アンチエイジング・精神安定・不眠症の防止・美容効果・抗アレルギー・抗癌作用など、栄養食品としてはかなりのすぐれものと言えましょう。

ナツメの栄養成分

ナツメ

ナツメの栄養成分は、100gあたり287kcal、「食物繊維 ビタミンB群 葉酸 カリウム 鉄分 リン カルシウム」など。

このうち葉酸は胎児の成長に大切な成分で、これの不足は先天的な障害を生む可能性があるとして近年妊娠した女性に積極的な摂取が求められています。葉酸は火を通すとかなりなくなってしまうので、生で食べられる乾燥ナツメはありがたい食材です。

栄養成分を見てみると、鉄分はそこまで多いとは言えないのですが、ドライフルーツの中では多く、中国では昔から「乾燥ナツメは貧血の人によい」と言われてきました。

ナツメを使った料理のレシピ

ナツメを使った料理を紹介します。ナツメを料理に使う時には通常、乾燥ナツメが使われます。

ナツメの甘いドリンク

ナツメ
【ナツメの甘いドリンクの作り方】

乾燥ナツメを洗ってタネを取り除き、適量の氷砂糖といっしょになべにいれ、水を少々入れてナツメがやわらかくなるまで煮ます。これを常食していると病後の滋養強壮やアンチエイジングに効果があると言われます。

ナツメとマトンのスープ

【ナツメとマトンのスープの作り方】

マトン100gをさいの目に切り、乾燥ナツメ30g・落花生30g・生姜・酒・塩といっしょに鍋に入れ、適量の水を入れて2時間ほど弱火で煮込む。

病後の滋養強壮などに効果があります。

良質なナツメの選び方

ナツメ

良い乾燥ナツメは、皮の色が赤く実が大きく、皮が薄くて皺が少なく、肉が厚めのもの。

皮の色が茶褐色になったものやフニャフニャになったものは避ける。

ナツメの価格

日本でナツメを買う場合、中国産は100g200~300円くらい、日本産(福井県産)もありますが、100g1000円以上します。台湾で売っている乾燥ナツメはほとんどが中国からの輸入品です。

おいしくて栄養価も高いナツメですが、中国産ナツメは安全なのかどうか?諸説あって真偽のほどはよくわかりません。買うとしたら日本のデパートなどチェックの厳しいところで買った方が無難でしょう。

ナツメの食べすぎは…

ナツメ

乾燥ナツメはそのまま食べてもおいしいのですが、食べすぎるとお腹が張り便秘になりがちです。また糖分が多くカロリーが高いのも気になります。多くても20粒以内がお勧めです。

ナツメの歴史

ナツメ

ナツメは真っ赤な色をしていて補血作用があると言われ、中国で古くから食べられてきました。

西周時代(B.C.1100ごろ~B.C.770)にはすでに乾燥ナツメを使って醸造酒を作っていたと言われます。

『詩経』(しきょう…孔子が編集したといわれる中国最古の詩篇)に「八月剥棗」という表現が出てきます。ナツメの収穫期は今も8月ごろです。

『戦国策』(せんごくさく…戦国時代B.C.486~B.C.222の遊説の士の言や策をまとめた書物)では「北にナツメや栗の利があり~民が食すに足りている」と書かれています。今も中国での主なナツメの産地は華北・河南・山東で、長江の北に属する地方です。

『韓非子』(かんぴし…戦国時代の政治家・韓非の著書)に、秦(B.C.778~B.C.206)は飢饉の時にナツメや栗で民を救済したと書かれています。このナツメは保存されていた乾燥ナツメのことでしょう。乾燥ナツメはカロリーが高くて甘い上に火を通さなくても食べられますから、飢饉の時の非常食としておおいに役立ったに違いありません。それにしても紀元前からこうした知識があっておそらくは非常時の民衆救済用に保存していたわけです…スゴイ!さすが後に秦の始皇帝を生んで中国を統一した国です。

明代の著名な医師であり薬学者の李時珍(り・じちん 1518~1593 明代の医師)もその著書『本草綱目』(ほんぞう こうもく 1578年に完成し中国薬学史上もっともすぐれた書とされている)の中で、ナツメはいろいろな病気に効能があると書いています。

中国では古くから、乾燥ナツメには虚弱体質・神経衰弱・胃腸の不調・消化不良などの改善効果や咳止め・貧血防止・抗癌作用などさまざまな効能があるとされ、「日食三顆棗、百歳不顕老」(日に3粒ナツメを食べていると百歳を過ぎても年を取らない)などと言われています。

ナツメの伝説

ナツメの実については中国にこんな言い伝えがあります。

昔、高陽郡(古代中国に存在した郡。今の河北省保定市一帯)の長官が作物の状況を聞こうとある村に視察にやってきました。村に入るとここの村長がナツメの木を売っている場面に出くわします。そこで乗っていた馬車から降りると、「これから実をつけるナツメの木をなんだって売ってしまうのだ」と村長に問いただします。すると村長は「この木はここ数年ずっと実をつけていない。だから実のなる前に売ってしまうのです」

長官はこの返事を聞いて「問題は木ではないな。ここの農民たちは木に関する知識を持っていないのだ…」と思い、「私はこの木が実を結ぶ方法を知っている。ただしまずは木を尋問にかけなくてはならない」

長官についてきた部下が「長官が明日みずから木への尋問をする」というおふれを貼りました。それを見た村人たちは「木への尋問だって?」といぶかり、おかしなことを言うもんだと言い交しました。

翌日このナツメの木のもとにはおおぜいの村人が集まりました。

長官は木に向かってまずは怒鳴りつけます。「ナツメの木よ、よく聞け!お前の主人は何年も何年も心をこめて世話をしてきた。風の日も雨の日も肥料や水をやりいっしょうけんめい世話をしてやった。それなのにお前はなんだ?恩返しという言葉を知らないのか?実を結ばないとは何事だ!許せん!」

まわりの民衆は腹をかかえて大笑いしました。ナツメの木が口がきけるとでも?この長官は頭がおかしいのか?

長官は人々を静かにさせてから再び木に向かってこう言いました。「恐れ多くも長官たるわしの前で、お前は口をきこうともしない。それではこれから刑罰を受けてもらうぞ」

こう言うや長官は斧を片手に木に近づき、斧のミネのところで木の樹皮をバシバシとうち叩き始めました。すると樹皮はバラバラに割れ木の中からは汁が出てきて、まるで「長官さま!お許しください!私が間違っていました」と言っているかのようでした。

長官は周りの農民たちを見回すと「もう帰っていいぞ。これで良い結果が出る」と言います。

農民たちはわけがわからずポカンとし、疑問が晴れないまま家に戻りました。

ところがその夏も終わろうとする頃、このナツメの木に実がたわわに実ったのです。こうしてこの村の農民たちは、ナツメの木は剪定しむやみに枝を伸ばすことがなければ栄養が実にまわる」ことを悟ったのでした。

ユーモラスな長官ですね。この長官の名前は賈思勰(か・しきょう…生没年不詳)、南北朝時代の北魏(386~538)の政治家で文人、農業技術に精通しており戦乱で荒廃した華北の復興に力があった人です。教育者としてもすぐれていたのでしょうね。

ナツメは中国で結婚式によく出される

中国の結婚式ではテーブルに乾燥ナツメをたくさん入れた皿を置く習慣があります。これは「ナツメ」と「早生貴子」(早くお子さんが生まれますように!という寿ぎの言葉)の「早」がどちらも「ザオ」という音なので縁起をかついでいるのです。

日本の結婚式で祝福の言葉としてこんなことを言ったら、最近ではひんしゅくを買いそうですが、中国では「結婚=子供(特に男の子)が生まれる」という考え方が農村部を中心にまだ根強いのです。結婚式で「早生貴子」という祝いのことばは今でも使われます。

「ナツメ」は結婚の祝いの席に欠かせない食品なのです。