杏仁

杏仁

杏仁(キョウニン)とは、アンズ(杏)の種の中のさねを取り出したものです。杏仁豆腐に使われる甜杏仁と、薬膳・漢方に使われる苦杏仁があります。

ここでは杏仁と杏仁豆腐について、杏仁の効能・栄養・中毒・レシピ・歴史などを紹介します。

杏仁とは

杏仁

杏仁(キョウニン)とは、バラ科の植物・杏(アンズ)の種子の中の「さね」(仁)を取り出したものです。杏仁には中国南方で採れる「甜杏仁」と中国北方で採れる「苦杏仁」があり、前者は杏仁豆腐やおやつなどに用い、後者は生薬(しょうやく…薬草を加工せずに使った薬)として薬膳・漢方で用います。

日本語では前者を「アンニン」と呼び、後者を「キョウニン」と呼びます。

果物の中にある固い部分を中国語では「核」とも呼び、さらにその中の食べられる部分を「仁」と呼んでいます。

ややこしいですね。じゃあ中国語にもある「種子」と「核」と「仁」にはどういう違いがあるのか…調べてみましたがはっきりした説明は見つかりませんでした。

日本語でも「種子」「タネ」「サネ」はどう違うのか…これも調べてみましたがよくわかりません。学術的には違いが明記されているのかもしれませんが、日常語になるとそう厳密には使い分けはしていないということかもしれません。

ともあれ「仁」はタネの中身に入っている「食べられる部分」という理解でいいでしょう。

ちなみにこの「仁」の部分、梅干しやビワのタネの中にもあります。梅干しの場合、ここを「観音様」とか「天神様」など神様の名前で呼ばれていますが、非常に栄養価が高いようです。ただし「杏仁」も梅干しの観音・天神様もビワの仁もすべて毒になる成分が入っていて、梅の場合熟すと消えるようですが、うっかり食べると危険です。生薬・杏仁もアミグダリンという青酸を発生する毒物が微量ですが入っていて、食べすぎは禁じられています。

杏仁といえば杏仁豆腐

杏仁豆腐

杏仁という文字を見れば「杏仁豆腐」が浮かびますが、上述したように、このデザートで使われる杏仁は「甜杏仁」の方で、明治以降中国の南方から伝わりました。読み方が違うのも南の音が入ったからかもしれません。標準語…現代北方中国語…で杏仁は「シンレン」と読みますが、これが日本語の「キョウニン」という読み方につながっているのでしょう。

ちなみにアンズは「杏子・杏」と書きますが、これも南方から伝わったのかもしれませんね。

杏仁はアーモンドのこと?

中国語で「アーモンド」を「美国大杏仁」と書くのですが、「アーモンド」の正式な中国語名は「扁桃仁」で、「杏仁」ではありません。

杏仁豆腐を作る時、アーモンドエッセンスかアーモンドパウダーが必要ですが、「アーモンドパウダー」の方は「アーモンド」ではなく「甜杏仁」が使われています。

杏仁(苦杏仁)の栄養成分

杏仁

苦杏仁…生薬としての杏仁…の栄養成分は、100gあたり884カロリー・脂質100g・飽和脂肪酸6g・多価不飽和脂肪酸29g・一価不飽和脂肪酸60gなどで、コレステロール・タンパク質・ビタミン・ミネラルなどはゼロです。このうち不飽和脂肪酸は長生きの元と言われています。

薬膳としては「苦」「微温」「有小毒」に属します。それぞれ「苦味」「体を温める」「毒が少しある」という意味です。このため子供に与える時は注意が必要で、大人でも取りすぎはよくなく、1回9g以下に抑えます。ただしこれは「苦杏仁」の方ですから、「甜杏仁」を使うデザート「杏仁豆腐」に関しては気にする必要はありません。

生薬としての杏仁の効能・避けるべき症状

杏仁

生薬・苦杏仁の薬効としては、咳止め・便通・慢性病の発病予防・肌の美容効果・など多方面にわたっています。

のぼせやすい人や肺結核・気管支炎・慢性腸炎・空咳・痰が出ないなどの症状を持つ人は長期にわたっての服用は避けます。

杏仁で中毒を起こすとどうなるか?

生薬・杏仁を取りすぎて中毒を起こすと、めまい・頭痛・吐き気・昏倒・脈拍が弱くなる・呼吸が不規則になる…などの症状を起こし、場合によっては死に至るというから怖いですね。生薬の杏仁は漢方薬のお店で飲み方をよく聞いてから買いましょう。

杏仁(甜杏仁)の効能は?

苦杏仁に対し甜杏仁の薬効はないのかというとそんなことはなく、咳止めや便通などに効能を持ちます。

甜杏仁を使った食品のレシピ

杏仁茶

材料)杏仁200gもち米100g氷砂糖10g

作り方)

1)杏仁を水に10分つけ、外側の果皮を取る。もち米はといで洗った後5~8時間水につけておく。

2)もち米と杏仁をミキサーにかけ、約200ccの水を加え白っぽくなるまでよく混ぜる。

3)上のもち米・杏仁ジュースを濾して鍋に入れ、砂糖を加えて弱火でよく混ぜればできあがり。

これはお茶というより、濃厚なジュースあるいは暖かいスムージーみたいです。台湾では咳止めのお茶として屋台でも飲ませてくれるとか。

生薬・杏仁の歴史

杏仁

生薬・杏仁(苦杏仁)は昔から使われており、中国で最も古い漢方薬の本『傷寒論』(後漢末~三国)にも出てきます。

咳止めの薬として使われてきましたが、毒があるので慎重に分量を考えて処方すべきとされています。

アンズの木

アンズの木

杏仁はアンズ(杏)の木に成った実から採ります。アンズの木は3月から4月にかけて白かピンクの花が咲き、6月から7月にかけて実がなります。原産は中央アジア・西アジア・地中海地域で、中国では広東地方などを除く全国各地で栽培されています。

ちなみに日本にも「アンズの里」と呼ばれているところがあります。長野県の安茂里(アモリ)…アンズの木が茂る里という意味を持つそうです。昔に比べると杏子の木は少なくなってしまったようですが。