ピータン

ピータン

ピータンとは中華料理の前菜などでたまに見かける、茶褐色で発酵したアヒルの卵のことです。

この一見して珍味、人によってはゲテモノと感じかねない不思議な食べ物・ピータンの、作り方・歴史と伝説・味・名前の由来・栄養・料理などについて紹介します。

ピータンとは

ピータン

ピータン」とは中国料理における食材で、皮蛋(ピータン)と書きます。「アヒルの卵の加工品」です。

よく前菜に出されますが、粥料理やお菓子などにも用いられます。高級なものは「松花蛋」(ソンホアダン)と呼ばれます。

作り方としては、アヒルの卵に塩、石灰、木炭、茶の煮出し汁、粘土などを混ぜて塗り、もみ殻をまぶして甕(かめ)に入れ密封、半月から数か月熟成・発酵させます。

白身は褐色のゼリー状、黄身は緑褐色でネットリしており、刺激臭があって外国人が手を出すにはやや勇気がいります。

ピータンはアヒルの卵
ピータンはアヒルの卵でできています。
アヒルの卵と鶏の卵
ピータンのサイズ感。アヒルの卵なので鶏の卵より一回り大きくなっています。

ピータンの味

ピータン

中国人から美味しいと言われていただいたピータン、なんとも不気味な形態と癖のあるにおいに箸が進まなかったのですが、思い切って食べてみると「基本ゆで卵+何か独特のクセがある」という味でした。中国料理の前菜のように、小さく切ってからネギや生姜を散らし、ゴマ油や醤油を垂らすとそれなりに食べられます。納豆のようなものと思えばいいかもしれません。

納豆も中国人に言わせると、初めはとても食べられなかったけれどネギを散らしてカラシとお醤油を混ぜると美味しかったとか。最初あのまま食べたのでしょうか。それは美味しくないでしょう。

ピータンもそのままではなく、豆腐などいろいろ混ぜてみると味わいが増して食べやすくなります。このページの下のほうでピータンを使った料理について書いてあるので、興味があったらお試しください。

ピータンの歷史

ピータン

日本人からすると不思議な食べ物・ピータンですが、この複雑な工程を経てできるピータン、いったいどういう歴史があるのでしょうか。

古書の記載では…

ピータンは明代には存在し「混沌子」と呼ばれていたそうです。

方以智の『物理小識』には、池州に変わった卵があり、5種類の木の灰を使って揉み、石灰などを加えると緑色になって固くしっかりする…などと書かれています。

『益陽県志』には、ピータンは明朝初期、湖南省益陽県で偶然に出来上がった。ある家で飼っていたアヒルが石灰の中に卵を産み、この卵が2か月後見つかり、皮をむいてみると黄身の部分がみな固まっていた、と書かれています。

ピータンの伝説・物語

ピータンがどうして生まれたかにはいろいろな伝説があります。そのうち2つを紹介しましょう。

ピータンの伝説-1

明朝の泰昌年間、江蘇省呉江県のある茶館は店主が商売上手で繁盛していました。人手が足りず、店主は客と挨拶しながら茶を淹れた後の茶葉を炉の灰に捨てていました。

この店主はアヒルを何羽か飼っており、このアヒルがよく炉の灰に卵を産み落としていました。それらの卵のうちいくつかがそのまま灰に埋もれてしまっていたのでしょう、ある日灰を掃除しているとそんな卵が灰の中から出てきたのです。卵の殻を剥いてみると中は黒光りし、その上には白い模様ができています。嗅いでみると独特の臭いがします。試しに口に入れてみるとおやまあこれが実に美味しい…これが人が口にした初めてのピータンだった、というわけです。

その後人々はあれこれ改良を加え今のピータンになったと言います。

これは江蘇省のピータン伝説ですが、もう1つ天津のピータン伝説があります。

ピータンの伝説-2

今から200年ほど前、天津のある村に豊かな農家がありました。そこの息子が母親のために棺桶を作って空いた部屋に置いておきました。現代日本人の感覚ですとこの息子はとんでもない奴だとなりますが、中国では昔、生前に棺桶を用意しておく習慣があり、母親のために棺桶を用意しておいたこの息子はとても親孝行な立派な息子なのです。

それからしばらくは母親が元気だったので、棺桶には湿気防止のために石灰や草木の灰を敷き、棺桶の蓋は通風のために少しずらしておきました。

翌年母親が亡くなったので棺桶に入れようと中を見るとなんと石灰や草木の灰の中から卵が100個も出てきました。どこのどいつがこんなことをしたんだ、と息子が怒ってこれらを投げ捨てるとカラが割れて中から褐色で透明なものが出てきました。周りにいた者が勇敢にもこれを一口食べてみると美味しい…と言うのです!そこで他の人も食べてみましたが確かに美味しい。こうしてその後この村の人々は、アヒルの卵を石灰と草木の灰の中に入れておき、しばらく熟成させてから食べるようになりました。

この卵は「変色蛋」と呼ばれ、これがのちに江蘇省浙江省一帯に伝わり、改善を加えて今のピータンになったと言います。

それにしてもなんでまた棺桶の中に卵を入れておいたのでしょう。盗んだ卵を入れたまま忘れてしまったのでしょうか…?残念ながら伝説はこれに対しては何も説明していません。

ピータンの有名な産地

益陽ピータン

民国初期袁世凱の死後、軍閥が割拠していた混乱の時代、ピータンは軍用食として缶詰などに使われていました。この時期のピータンとしては湖南省益陽県のものが一番多く、武漢や香港・アモイ・東南アジアなどに向けて600万個以上売られていたそうです。

1970年代中国とアメリカが国交を樹立した際、当時のキッシンジャー国務長官を招いての宴会ではこのピータンが出され、キッシンジャーが周恩来に「このガラス卵はどうやって作ったのですか」と聞いたという話が伝えられています。

1981年には益陽印のピータンは食品品評会で肉・卵製品部門の金賞を獲っています。

その後益陽のピータンは鉛の含有量が多すぎるという結果が報告され、一時市場を失ってしまいます。その後包装を新たにし「益陽印 無鉛ピータン」ということで再び売り出しましたが以前の人気は取り戻せなかったということです。

宜春ピータン

宜春は江西省の市で、ここのピータンも国内外の市場で伝統と名声を誇っています。

宜春のピータンも百年以上の歴史があり、清朝の光緒帝の時代に作り始め、初めは手作業、今では機械化され、その規模は拡大しピータンの品目も増えています。

ピータンの作り方と「松花蛋」と呼ばれる理由

ピータン

アヒルの卵に塩、石灰、木炭、茶の煮出し汁、粘土などを混ぜて塗り、もみ殻をまぶして甕(かめ)に入れ密封、半月から数か月熟成・発酵させます。卵の中で変化が起き、白身部分は黒い半透明のゼリー状になり、その上に淡い黄色の模様ができます。これが松の葉に似ているのでピータンは「松花蛋」とも呼ばれます。黄身の部分は飴のように柔らかくなり、食べる時に火を通す必要はありません。

ピータンの保存方法

ピータン

ピータンのカラが割れなければ長期保存ができます。割れたり亀裂が入ったりすると高温下ではすぐ腐ってしまいます。そこで保存としてはカラをつけたまま涼しいところに置いて常温で保存します。長期冷蔵・冷凍するとピータンの口当たりが悪くなるので、冷たいピータンを食べたければ食べる直前に冷蔵庫で冷やします。

保存可能期間は製造日から半年以上。製造日から2年というのも見ますが、買う時に確認した方がいいでしょう。

ピータンの栄養価

ピータン

ピータン1個当たりの栄養価は以下の通り。

【ピータン1個当たりの栄養価】

カロリー:139kcal

タンパク質:8.9g

脂質:10.7g

ナトリウム:507mg

カリウム:42mg

カルシウム:59mg

リン:150mg

鉄:2mg→貧血防止に効果的。

ビタミンA:143マイクログラム→美肌効果や目に良い。

飽和脂肪酸:1.99g

コレステロール:442mg

DHA:3mg→記憶改善・認知症予防に効果的と言われる。

ピータンは鶏卵同様コレステロール値が高いのが問題ですが、全体に栄養価の高い食べ物と言えます。

良いピータンの選び方

白身の部分が半透明で褐色がかったきれいなものが上物です。松葉のような模様が入っていれば更に良いものです。変質してしまったピータンはカラに斑点が多く、白身の色が浅緑色に、黄身の部分が黄色になっています。

ピータンの価格

中国におけるピータンの価格は、どこで買うか、品質はどうかによりますが、おおよそ1元(約16円)~1.5元(約24円)くらいです。

ピータンを使った料理

北方人の好きな「ピータンと生姜・酢和え」

ピータンと生姜・酢和え

ピータンをいくつかに切り、上に刻み生姜かおろし生姜をかけ、その上に酢をたらして和えます。

広東人の好きな「皮蛋瘦肉粥」

皮蛋瘦肉粥

ピータンのみじん切りを粥にかける「皮蛋瘦肉粥」

【ピータン粥の作り方】

1)米を洗ってとぎ、水とゴマ油を入れて30分つけておく。生姜は細切りに、ネギは細かく、ピータンも細かく切っておく。

2)肉をみじんに切り、塩を少々振りかけて20分置いておく。

3)鍋に水を入れ火にかけ、肉を入れて少し煮込み、その後ピータン半分と生姜を入れて2分くらい煮、水に浸しておいた米を入れて弱火で40分煮る。その際5分おきくらいにかき混ぜ、鍋にくっつかないようにする。

4)最後に残りのピータンを入れて10分煮たら火を止める。食べる前に塩少々とネギを入れる。

台湾人の好きな「ピータン豆腐」

ピータン豆腐
【ピータン豆腐の作り方】

1)豆腐に上から塩をふりかけ10分ほど置く。10分後豆腐から出た水を捨てる。

2)ピータンを切り分け、ネギも細かく切っておく。

3)豆腐の上からピータンをかけ、さらに塩を少々ふりかける。細かく切っておいたネギとゴマ油を振りかける。

ピータン騒動

2011年にCNNが「世界で一番気持ちの悪い食べ物」としてピータンを取り上げたことがあります。これに対して中国ネットは大憤激。脅迫騒ぎまで起きてCNNは英語と中国語で謝罪に追い込まれたということです。

最近のこの種のランキングでもピータンは「グロテスクな食べ物ベストテン」にランクインしています。日本からも2食品ランクインしましたが何だと思いますか?「魚の活き造り」と「塩辛」です。

私としてはどちらも納得ですが…

でもまあ他国の食文化を上から目線であげつらうのって悪趣味ではありますね。