中国の医療・病院の問題点
Tweet中国の今の医療事情を中国語一言でいえば、「看病難・看病貴」ということになります。
「看病」とは「看病」のことではなく、「病気を診てもらう」ということです。
「看病難」は「病院に行って病気を診てもらうのが大変」、
「看病貴」は「病院に行って病気を診てもらうのにお金がすごくかかる」ということ。
このページでは中国の「看病難・看病貴」問題を中心に、中国の医療事情を紹介します。
目次
- 1. 「看病貴」……中国の病院費用問題
- 2. 中国の医療保険制度
- 3. 中国の医療の問題点
- 4. 医師や病院が金儲けに走る
- 5. 中国では医療にコネも大事
- 6. 治療の前にまずお金
- 7. サービス面での不備
- 8. 中国の光と影
- 9. 医食同源
「看病貴」……中国の病院費用問題
まずはこの「看病貴」(病院に行くとお金がすごくかかる)の問題から説明しましょう。
日本で医療費はサラリーマンが自己負担1割、その家族や自由業などの人は3割負担です。具合が悪くなったら病院に行くのは当たり前、時間がなくて…という人はいても、お金がかかるから…という人はほとんどいないでしょう。この保険制度がなかったらと仮定すると、医療費3割負担の人がちょっとした病気で薬もいれて2~3千円かかった場合、全額負担は6600円~1万円、これは重いですね。いかに日本の医療保険制度がありがたいものかよくわかります。日本の医療制度は医療レベル・医療サービス・医療費負担の公平性などの面で世界有数の水準を誇っています。
中国の医療保険制度
中国でももちろん医療保険はあります。
中国の医療保険制度は都市住民か農村住民かによって大きく分かれます。さらに公務員か民間企業の職員か、失業者か自由業か、年金生活者か子供かなどによっても変わります。
これらの保険はどのくらいカバーしてくれるのか。けっこう複雑で、地域や病院のランク、支払い額によっても異なります。
日本とまったく異なるのは最初に必要な一定額は自己負担で、それ以上かかった場合保険が使えるというやり方です。
たとえば北京で働いている人が入院する場合、年間1300元(約2万2100円)までは自己負担、1300元を超えると10万元(約170万円)までは病院のランクや入院費などに応じて3~15%が自己負担、10万元を超えると30万元(510万円)までは15%の自己負担、30万元以上は全額自己負担となります。
つまり高額医療を受けたければ自分で支払うという考え方です。
以上は入院費ですが、通院でかかる医療費の保険については計算法がまた変わります。
日本に比べるとやや複雑ではありますが、ただこれらを見る限り中国でも日本と同様医療費の大部分は保険がカバーしてくれ、問題がないように感じられます。いったいどういう点で問題が起きてくるのでしょうか。
中国の医療の問題点
1.医療保険は任意加入で強制加入ではない。
つまり中国の現行保険制度は国民全員が加入している保険ではないということで、保険料も払えない低所得者には恩恵が行き届いてはおらず、さらには低所得者ほど給与水準が低く、自己負担額が重いという状況もあるようです。
14億という国民全員への目配りはまだ不十分な保険制度ということでしょう。
ただ中国政府は2020年までに「国民皆保険」をめざしているということです。
2.医療のハード面よりソフト面に問題を抱える
立派な病院や医師の数(2015年の統計では1000人当たりの医師数は1.8人、日本は同2.3人)などもそう見劣りのしないレベルなのですが、そうしたハード面より、運用面、つまりソフト面で中国の医療はいろいろ問題を抱えているように見えます。
医師や病院が金儲けに走る
多くの中国人が「金儲け」に夢中という風潮が衰える気配はなく、だからこその中国の発展なのでしょうが、そのマイナス面として、医師もまた患者よりお金という状況が全員ではないでしょうが時にある、あるいは制度上誘発しやすい。
たとえば中国の医療は出来高で支払われるのですが、その際海外から輸入した医療器具や薬品などを使うよう患者が誘導され、結果的に高額医療を支払わされるという状況が生まれています。
また日本では医薬分業ですが、中国では分業になっていないので薬も高額なものを買わされがちです。
また有名な医師などには謝礼・袖の下が支払われ、この額もバカにはなりません。日本でもこうした習慣が消えたとは言えませんが、こうした謝礼によって治療が左右されるということはまずないでしょう(と思いたい)。中国では謝礼を渡さないと治療の質が落ちるという心配があるようです。
中国では医療にコネも大事
また謝礼ではありませんが、いわゆるコネがあると早く診てもらえるなど医療サービスの不平等もよく見られる現象で、患者の不満を買っています。有力者や関係者へのコネがあるかないかで、すぐ治療を受けられるか、良い治療を受けられるか変わるというのですから辛い社会です。
治療の前にまずお金
病気を診てもらう場合、中国ではまずお金を払います。日本のように診てもらったあとにお金を払うというやり方ではありません。これは救急車などでも同じで、救急車に乗せてもらう場合まずお金が要求されます。お金のない人は乗せてもらえません。
つまりお金がなければ助かる命も落としてしまうのです…
無事入院した後もその後の費用が滞れば、治療も途中でストップします。
なぜこんなに非情なのか、おそらくは治療をした後そのままお金を払わず逃げてしまう人がいるからでしょう。
日本で一部の中国人観光客が、病院で治療を受けた後お金を払わずに帰国してしまうことが問題になっていますが、おそらくその中国人としては「そういう穴を作っておく方が悪い」という感覚でしょう。これは中国人だけでなく、世界の多くの国が同様だろうと思います。日本のように無条件で他者を信じる社会、それが通用する社会は世界では稀なのです。
都市の大病院に入院して、病院側の言うまま高額の治療を受けているとベッド代も含めて1日日本円で10万円近くかかってしまうという話もあり、家族に重い病人が出たら終わりと言われています。これは貧困クラスではなく、中国の中流以上の家庭の話です。
サービス面での不備
日本でも待ち時間の長さはよく問題になりますが、近年では予約制度が浸透し、さほど待たなくても診てもらえるようになってきました。
中国ではまず診察申し込みをするのに、明け方から並ばなければならないという状況があります。スマホが老人にまで普及している中国ですので、なぜまだこうした問題があるのかよくわかりませんが、儲けにつながらない患者サービスは遅れているということかもしれません。
同様に、日本では患者の名前を「様」付けで呼んだりして違和感さえもたらしていますが、中国のテレビドラマなどを見ていると、患者は「3床!」(中国語で「床」は「ベッド」という意味)などベッドの番号などで呼ばれていて、しかも病院側は居丈高。日本人から見ると入院患者は一般に人間扱いされていない感じがします。
中国で入院すると「付き添い」も不可欠で、入院患者の食事も家族が用意しなければなりません。
この状況は日本と比較すると戦前の医療サービスに近く、ITなど最先端を行く近年の中国のイメージとはだいぶ異なります。
おそらく高額の支払いを必要とする高級病院では豪華な食事や至れり尽くせりの看護サービスが得られるのかもしれません。そうではない並み・並み以下のレベルになると、家族の負担がきわめて大きな付き添いや食事の準備が要求されます。
医師や看護師の態度は数十年前の日本と同じで、患者側からすると横柄な感じです。大金は取られる、態度も悪い…ということで、近年の中国では医師が患者から暴力を振るわれる事件が多発しています。命を失う医師もいるほどで、「医者の友人はほしいが、子供を医者にはしたくない」と中国人は言います。
中国の光と影
今の中国は経済やIT技術が大発展というニュースもあれば、スモッグや食物の汚染など深刻なニュースも多々伝わり、どれが本当の中国なのか実に捉えにくいのですが、そのどれもが今の中国です。
ここで書いた中国の医療問題は中国の影の部分です。とはいえ、中国特有の問題ではなく、日本も過去これとよく似た道を歩んできました。日本は何十年もかけて一歩一歩これらの問題を解決、あるいは大問題を小さな問題にしてきました。
今中国人は現代日本の医療情報をため息まじりに読んでいます。
ハード面で先進国に追いつき、追い越すのは中国は得意です。
ソフト面は難しい。価値観や習慣とからんでいるからです。
「人」、特に「弱い立場の人」を大切にできるか、「どんな人でも公平に扱えるか」…こうした分野は中国人の苦手とするところです。
日本人は公平好き、中国人は特権好きと言ってもいいかもしれません。
公平好きな日本人は医療でもこの好みを生かしてきました。
特権好きな中国人も日本の医療制度は好きですが、中国という風土で似たものが作れるか?
おそらくはいずれ日本とはかなり異なる、中国独特の医療制度を作り上げていくのではないでしょうか。
医食同源
最後に日本でもおなじみの「医食同源」中国版に触れておきましょう。中国語では「薬食同源」といい、古くからの考え方です。
つまり食材と薬材に境界はない、食物にも薬と同じ効用がある、いろいろな食材をバランスよく食べていれば病気にはならないという考えです。
最近は日本でも、食事は空腹を満たし人を元気にするだけでなく、食材によっては病気に効くなどの話を聞きますが、中国ではこうした言葉がそこここに溢れています。
体調が悪いと聞けば骨付き鶏肉スープを勧められたり、貧血だと言えばナツメをプレゼントされたり、咳がひどいといえば梨の甘煮が良いと言われたり…。
中国人はとにかく「どんな食材がどんな症状に効くか」にとても興味を持っていて、日本人がそれを聞かれても「風邪の時に卵酒がいいって言われているかなあ」くらいしか答えられないのでがっかりします。
中国人は昔からこうした智慧が豊富だったということもあるでしょうが、近年では冒頭の「看病難・看病貴」という社会状況からもきているのかもしれません。