中国の教育

中国の教育

日本は6.3.3.4制ですが、中国はどうなっているのでしょうか? 中国の学生は日本人よりよく勉強すると聞きますが、本当でしょうか? 小学校・中学校・高校などで学ぶ科目はどんなものがあるのでしょう? 制服は? 私立校と公立校とかの区別ある? 受験は厳しい? などなど、近くの国なのに実はよくわからないことだらけです。

ここではそうした中国の教育事情と中国の教育に関する問題などを紹介します。

中国の教育制度

中国の教育制度も日本と同じ6.3.3.4制です。小学校6年・中学校3年・高校3年・大学4年です。ただし中学と高校の名称が日本語とは異なり、中学を「初級中学」と呼び、高校を「高等中学」と呼びます。つまり中国の中学と高校はともに「中学」のカテゴリーに入ります。ちなみに中国語で「高校」は大学を意味します。

考えてみれば中国の呼称の方が合理的で、小→中(初級・高級)→大となっていてわかりやすく、日本の小→中→高→大の方が言語的にはやや違和感ありです。

中国の義務教育

中国も小中学校の9年間が義務教育ですが、全額学費免除ではないので、農村部の生徒の中には中学の学費が払えずに小学校で学校教育は終了、その後は農業に従事するか、都市部に出ていわゆる農民工(農村出身の出稼ぎ労働者)になる子供もいます。近年は政府の援助や農村地域の経済発展もあり改善はされていますが、まだこうした状況は続いています。

一方都市部の学校では、評判の良い公立中学には特別な費用を納めて入学する生徒や、貴族学校と呼ばれるきわめて高額の私立学校に入学する生徒もいます。

中国では高校から進路が変わる

高校からは普通高校と職業高校に分かれます。

普通高校は3年で、ここを卒業すれば一般に大学をめざします。

職業高校としては中等専門学校や技術労働者学校、職業中学などがあり、ここで2~4年学んで社会に出ます。

「高考」という人生の分かれ道

普通高校を卒業する年の6月7日・8日の2日間、「高考」(ガオカオ)と呼ばれる一斉試験があります。正式名称は「普通高等学校招生全国統一考試」と言い、ここでいう「高等学校」は「高等教育機関」のこと、つまり「大学」を意味します。

この試験で高得点を取って合格すればいわゆる一流大学に進み、一般にエリートの道を歩みます。不合格の場合は浪人して翌年再チャレンジするか、あきらめて仕事に就くことになります。

中国の親子にとって、小学校からの勉強はこの「高考」に合格するためと言っても過言ではありません。試験の日、試験会場の前には子供の入試合格を祈る親たちで埋め尽くされます。

「高考」の合格ラインは受ける生徒の出身地域によって異なり、たとえば北京の高校生が北京の大学を受ける場合、他の地域出身の高校生が同じ大学を受けるよりも有利になっています。日本でたとえるなら、東京の大学は東京出身者が優遇され、地方出身者は東京出身者より点数が高くないと入れないわけです。なぜなのか?いろいろ読んでみたのですがはっきりしたことはわかりません。こうした差別的な構造に異議申し立てをしたという話も聞きませんので、中国人はこの現実を受け入れているということでしょう。

試験科目は文系が「国語」・「外国語」・「文系数学」・「文系総合」、理系が「国語」・「外国語」・「理系数学」・「理系総合」で、外国語は英語・ロシア語・日本語の中から1つ選び、750点満点です。

中国の大学の種類

中国の大学は高校生たちが入学する「普通大学」と一般人を対象とした「成人大学」があります。

「普通大学」には「本科大学(いわゆる大学のこと)」4年・「専科大学(短大あるいは専門学校に相当する)」2~3年・「大学院教育」があります。これらは政府が運営する国立大学または公立大学ですが、ほかに「民弁大学(私立大学)」もあります。

中国の進学率

中国の大学進学率(短大を含む)は2017年の統計で約51%、日本は2918年の統計で64%です。中国では近年まで大学進学率がかなり低かったので大変な勢いで伸びていると言えます。

ただし高校進学率を見ると、日本は99%。中国は最近のデータで、都市部で70%、農村部で10%、都市部と農村部の格差の大きさが際立ちます。

中国の小学校で学ぶ科目

小学校で学ぶ科目は、「品徳と生活(道徳?)」・「品徳と社会(道徳+社会?)」・「語文(国語)」・「数学(算数)」・「英語」・「体育と健康(保健体育)」・「科学(理科)」・「音楽」・「美術」・「情報技術(IT)」で、小学校ですでにIT科目が入っています。さすが中国、スゴイ!と言いたいところですが、これが人口の5~7割を占める農村地域(数字が分かれるのは、「鎮」と呼ばれる農村地域における小都市を「都市」にするか「農村」にするかで変わってくるからです)では一般に国語・算数・体育だけの3教科だそうです。

3科目以外を教える先生がいないという理由からで、同じ公立学校なのに都市と農村でこんな違いがあったら日本では憲法違反として大問題になるでしょうが、中国ではそうした話は聞きません。上述した高校進学率が都市と農村で大きな違いがあるのも、こうした基礎教育の差も原因の一つでしょう。

中国の中学校の授業科目

中学校での授業科目は「思想品徳(道徳?)」・「語文(国語)」・「数学」・「英語」・「物理」・「化学」・「歴史」・「政治」・「地理」・「生物」・「体育と健康(保健体育)」・「情報技術(IT)」・「音楽」・「美術」。一部の地域では英語の代わりに「ロシア語」か「日本語」が入っているそうです。

中国の高校の授業科目

文系に行くか理系に行くかで科目が変わります。それぞれの科目は日本とほとんど変わりません。

中国の授業時間

中国では小中高とも日本より授業時間が長い傾向があります。高校を例に取りますと、普通高校の場合制度的には週休2日となっているのに、大部分の学校は「朝自習」(1時間程度)「夜自習」(2時間程度)「土曜補習」(半日から終日)があります。日曜日は休みですが、一部の学校ではこの日も補習があるそうです。しかもこの補習にも授業料を払う必要があります。

高校生ですと受験がありますのでこうした状況は理解できるのですが、中国では小学校からこうした学習体制が行われており、何等かの事情で親に連れられ日本にやってきた学生の中には「あのまま中国にいたら僕は今頃死んでいた」などと物騒なことを言う学生もいます。親世代の中国人で日本で暮らしている人たちも「小学校であまりに過酷な勉強を強いられるので、精神的におかしくなる子供も出ている」と言います。

この一番の原因は上述した「高考」で、これを無事通過しさえすればその後の人生は基本安泰、失敗するとその後の人生はなかなか厳しいということです。かつての「科挙」の再来を見ているような気もします。ちなみに高考で1番を取ると「状元」(科挙のトップ合格者)と呼ばれて名前も公表されるので、中国人の意識の中で「高考イコール科挙」となっているのかもしれません。

中国の高校生活には部活も文化祭もない

上記の事情は日本でも進学校ですと似た状況はありますが、日本ではどの高校も文化祭や体育祭、部活など授業以外にいろいろな活動があります。中国では運動会以外こうした行事はほとんどありません。たぶんそんな時間や精神的なゆとりがないのでしょう。中国のネットの書き込みを読んでいると、日本の高校生活がうらやましい、という文章によく出くわします。彼らはアニメなどを通して日本の高校生活をよく知っているのです。

日本ではサッカーや野球など高校にも全国大会があって地域全体で盛り上がったりしますが、中国でこうしたものはありません。中国はオリンピックであんなにスゴイのに…という声が上がりそうですが、中国のオリンピック選手は一般に、本人の希望とは無関係に中国全土から才能のある子どもが集められ、特訓を受けて国威発揚のために頑張るのです。スポーツの広い裾野があって、そこから伸びてきた若者が自分の夢の実現のために頑張っているわけではありません。

可愛くかっこいい制服も中国にはありません。みなジャージに身を包んでいて、勉強一筋という感じです。

中国の激しい競争の光と影

人口の多い中国で激しい競争を潜り抜けなければならない中国で、この競争に打ち勝ったエリートたちはとんでもなく優秀だそうです。知力だけでなく精神的にもタフ、肉体のメンテナンスにも注意を払っている印象があります。

今をときめくアリババやテンセント、ファーウェイなど中国を代表する有名企業にはこうした人材が入っていて、これらの企業が伸びていくのも納得です。

人間の能力のうちひたすら知力にのみ特化した教育や、人口の半分以上を占める農村部の教育にはお金をかけないような教育行政には疑問を感じずにはいられませんが、勝ち組中国人の強烈な闘争心やハングリー精神には脱帽です。アメリカが恐怖を感じるのも無理はありません。

中国の教育をめぐるさまざまな事情

学校教育をめぐる事柄には上記以外に、たとえば送り迎え問題などがあります。

小中学校の送り迎えが大変

中国では小学校や中学校低学年の子供たちの登下校は親が送り迎えをし、生徒たちだけで登下校をすることはほとんどありません。誘拐などの危険があるからです。年間20万人の児童が行方不明になる(誘拐だけではない)といいますから尋常ではありません。

中国を代表する女優・ビッキー・チャオが主演した映画『最愛の子』ではこうした状況が描かれています。児童誘拐の悲惨な点の一つは幼い時に誘拐されると子供はときに誘拐犯になついてしまい、必死に行方を捜した親になつかなかったりすることです。この映画ではそうした残酷さも描かれていました。

こうしたことから中国では子供の送り迎えは必須で、共働きの多い中国ではなかなか大変です。ふるさとから親を呼び寄せたり、奥さんが仕事をやめたり、生活の面倒も見てくれる塾に入れたりしてしのいでいます。日本に観光に来た中国人が、子供だけで登下校をする小学生たちを見て目をまるくするのも無理はありません。

子供たちの食事

日本では給食が一般的ですが、中国では家に帰って食べるのが一般的です。そうすると親はまた送り迎えしなければなりません。給食を出す学校もありますが、ときどき食品の質の悪さが問題になっています。

日本の給食では子供たちが配膳などの仕事を受け持ちますが、こうした様子を参観した中国人は、ただ食べるだけでなく給食を通して教育をしている様子に感銘を受けるようです。

中国の教育事情を日本と比べると

中国の教育事情をざっとながめて日本と比べた場合、以下のような違いがわかります。

「日本と中国の教育事情の違い」1

教育が勉強・知力に特化している。スポーツのような体力づくりさえあまり顧みられない。ましてや音楽や美術、技術や家庭科など文化面・生活面は勉強の邪魔のように思われている。

日本の場合は中国と比べれば多様な能力の価値が認められ、知力・勉強一辺倒ではない。>

日本ではまた給食の配膳や一人で或いは子供だけの登下校など日常的な行為を通して、自立や協力、規律などを学ばせているが、中国の場合は勉強をして良い成績を上げ、競争に勝つことに重点を置いているように見受けられる。したがって知力競争を重視したり、競争で勝つことを目的とするなら中国の方が有利かもしれない。

いずれさまざまな場面で中国が日本を凌駕することが増えてきた場合、日本式教育法…多面的な価値、全人的な教育…を守り切ることができるかどうか、日本人の価値観や信念が問われるかもしれない。ただし日本で暮らす中国人は一般に日本的教育法を高く評価しているので、中国の方が変わっていくかもしれない。

「日本と中国の教育事情の違い」2

日本では教育の現場において公平さがきわめて重んじられ、子供の客観的背景など自分ではどうしようもないことで他と差別があってはならないとされている。ただし日本でも親の財力や学歴などで子供の成績に差が出てくることが指摘されている。

中国でも同様のことはもちろんだが、都市戸籍か農村戸籍かなど戸籍によっても大きな差が生まれ、生涯それに左右される。つまり中国において戸籍とは身分のこと。都市戸籍の人間は生まれながらに優遇され、農村戸籍の人間は生まれながらに不遇であり、ここからはなかなか抜け出せない。たとえば2003年の統計では農村戸籍(人口の5~7割を占める)の高校生の有名大学への合格率は都市戸籍の高校生のわずか2%にすぎない。こうした不平等や格差の是正は問題になってはいるものの、なかなか改善に結びつかず逆に近年一層悪化しているという。

このことは、中国人にとって「教育の公平さ」は日本人のように重要だと思われていない、ということかもしれない。そしてこれは「フェア」という観念への無関心にも結びつくのかもしれない。というより「ルールやフェア」に無関心な中国社会のありようが、教育現場にも反映されていると言った方がいいのかもしれない。

ルールやフェアに無関心な社会の方が競争社会ではいったんは勝つ可能性が高いが、長くは続かないのは今の米中貿易戦争を見ても明らかで、いずれ中国は変わっていく…と思いたい。