中国の挨拶のジェスチャー 【拳を手で包む拱手、握手、お辞儀など】

中国の挨拶のジェスチャー

拱手

拱手

拱手とは

中国の時代劇を見ていると片手をもう片方の手で包んでそれをやや振り、感謝の意を表している姿をよく見ます。これは拱手(こうしゅ)の礼と言います。

中国語では“拱手 gǒngshǒu”です。

拱手は今でもよくやりますが、一般には男性のしぐさで、右手の拳を左手で包むのが普通です。感謝や依頼、「頼みます」ということなどを表します。女性がやるとちょっと女親分みたいですが、なんか豪快でいい感じです。日本に伝わっていないのが残念。

拱手の礼は一度廃れた

このしぐさは昔からありますが、新中国になって以来いったん廃れてしまったようです。封建時代の名残のように感じられたのかもしれません。特に文革時代は「破四旧」(四つの古ぼけたもの…古ぼけた思想、古ぼけた文化、古ぼけた風俗、古ぼけた習慣を打倒する)キャンペーンが大々的に行われ、古い文化は徹底して目の敵にされました。

私の知り合いの方(現在70代)は北京で育った方ですが、少女時代北京の大きなデパートに行くと、店員さんたちは貧しい少女にも礼儀正しく優しかったそうです。それが文革時代に入ってしばらくすると態度が一変、荒々しくなってしまったのだそうです。礼儀正しさも攻撃される可能性があるなら、拱手の礼などとんでもなかったでしょう。封建時代のなごりをなつかしむ反革命分子と目され、場合によっては命の危険もあったかもしれません。こんなことをやる人がいなくなるのも当たり前です。

拱手の形に諸説あり

拱手の礼が復活したのはいわゆる改革・開放の時代(80年代以降)になってからです。香港のカンフー映画などから入ったのかもしれません。

右手の拳を左手で包むのか、左手の拳を右手で包むのか諸説ありますが、正確なところはよくわかりません。これは数十年文化の伝承が途切れたことによるのだと思われます。

握手

握手

拱手の礼が今では時折見かけられるとはいえ、中国における挨拶としてのジェスチャーは一般に握手です。特にあらたまった場での挨拶は握手になります。

中国語では“握手 wòshǒu”と言います。

お辞儀

中国でおじぎはしない?

日本における挨拶としてのジェスチャーはもちろんおじぎですね。では中国ではおじぎというジェスチャーはまったくない? いいえ、あります。ただ出会った時の挨拶としては使わないのです。どういう時に使うか、と言えば深い感謝やお詫びとして、また深い礼を表すものとして使われます。たとえば結婚式、新郎新婦は両親や結婚式の主催者、参列者に向けておじぎをします。また新郎新婦どうしもお互いにおじぎをします。お葬式では参列者が故人におじぎを3回ささげます。偉い人の銅像の除幕式などでもおじぎの礼をします。これも3回です。

このおじぎは中国語で“鞠躬 jūgōng”と言います。

中国人のおじぎには意味がある

つまり中国でおじぎは人にささげる礼であって、単なる挨拶には使われません。道で知り合いに会ってお互いにおじぎをし合うということはないのです。ですから日本に来たばかりの中国人に何かの理由でおじぎをされたら、それは単なる挨拶ではなく深い礼をささげられていると思った方がいいでしょう。思い当たることがあったら“别这样! Bié zhèyàng!”(やめてくださいよ)などと言った方がいいでしょう。でないと、「この人は私がおじぎをして当然だと思っているんだな」と思われてしまうかもしれません。

日本で暮らす中国人のおじぎは?

もちろん日本の生活になじんでいる中国人のおじぎなら日本人と同じ、単なる挨拶ですから気にする必要はありません。ところで日本のおじぎはかなりの伝染力があるようで、来日した人はもちろん、帰国しても習慣になってしまう人が多いようです。来日したばかりの時は、電話をしながらおじぎをする日本人に大笑いした中国人も、帰国すると同じことをやってしまうとか。

中国のお辞儀は人にささげる礼としてのしぐさ

つまりおじぎは日本では挨拶としてのしぐさですが、中国では挨拶ではなく、人にささげる感謝や謝罪としての礼なのです。このタイプのものとしてはほかに“下跪 xiàguì”(ひざまずく)、“磕头 kētóu”(額づく……“叩头 kòutóu”とも言います)などがあります。

ひざまずく

膝をつく姿勢は深い礼を表す

ひざまずくというのはたとえば、居酒屋でお店の人が膝をついて注文を取るような姿勢です。お尻は足の裏につけていてもいいのですが、一般に持ち上げたままです。ちょうどL字型のようになります。あの姿勢が感謝や謝罪を表す深い礼になるというのですから、日本人にはびっくりです。

だって日本ならどこでも見られるしぐさでしょう。靴を買う時、お店の人はよく膝をついて大きさを見てくれます。飛行機の中でキャビンアテンダントが目線を乗客と同じ高さにするため、膝をついていろいろ話しかけてくれます。私たちには何ということもないしぐさですが、中国人にとってはびっくりなんだそうです。こんな深い礼をささげてくれている!何でなんだ!?となるわけです。

男の膝には黄金が埋まっている

膝をつく姿勢がいかにおおごとか、“男儿膝下有黄金。 Nán'ér xīxià yǒu huángjīn.”(男子の膝には黄金がある)という言葉があるほどです。

膝はそれほど大事なものだから軽々しくひざまずくなという意味です。一生に2回か3回しか許されないというのですから大変です。中国からの留学生たちは居酒屋ではアルバイトができませんね。

ひざまずく礼を受けたら

逆にこういう礼を受けたら、仮に相手が自分に恩を感じてもいいような事柄があったとしても“起来吧! Qǐlái ba!”(立ってくださいよ)と言ってやめさせるのが普通です。

額づく

額づく
「叩頭の礼」(額づく礼)

ぬかづくというのは額を床につける礼です。叩頭こうとうの礼とも言います。中国の子供たちは春節の時、おじいちゃんおばあちゃんの家に行ってお年玉をもらうのですが、その時この礼をします。この時コツンという音を立てるのが大切で、痛くないように音を立てるにはコツがいるんだそうです。テレビドラマでこうした場面を見ていると、孫たちの中で一番大きな音を立てた子が一番お年玉をもらっていたりします。

柏手を打つ

逆に中国になくて日本にある礼が「柏手(かしわで)を打つ」というしぐさ。柏手を打つ対象は神道の神様ですから、中国になくても不思議はありません。3世紀末に書かれた中国の史書『魏志倭人伝』に、倭人は高貴な人に会うと手を叩く、とありますので、かなり昔から日本列島にはあった習慣なのでしょう。

これは中国語に訳せば“拍手 pāishǒu”(拍手)です。

手を合わせるしぐさ

日本では神道の神様には柏手を打ち、お寺の仏様には手を合わせるという礼をささげますが、中国ではどうでしょうか?私の見るかぎり、仏様への礼はひざまずき額づいている人がほとんどで、手を合わせているのは一般にはお坊さんです。

手を合わせるしぐさは中国語では“合十 hésh픓合掌 hézhǎng”と言います。

日本と中国でしぐさと意味に違いがあります

こんなふうに日本と中国では似たようなしぐさがあっても、それがかなり、または微妙に違います。誤解を招くことはあまりないとしても、中国人が心をこめた礼が日本人には伝わらなかったり、逆に日本人の何気ない挨拶が深い礼として受け取られてしまったりということはあるかもしれません。こうした違いを少しでも知っていると、中国人との付き合いがスムーズになります。