中国語で「ありがとう」の表現集【文化を知って、より伝わる挨拶】
中国語の「ありがとう」は、いろいろな言い方があり、状況に応じて使い分けをします。覚えてしまえばそんなに難しくありませんが、難しいのは「ありがとう」という感謝の表し方の文化の違いです。日本では言うのに中国語では言わない、中国語ではこういう意味で使うのに日本語ではそんな意味にはならないなどなど…。中国語の「ありがとう」だけでなく、こうした文化的背景も書きましたのでそこもぜひお読みください。
それから日本語だと「ありがとう」のほか「ありがとうございます」もあってこちらの方が丁寧な言い方ですが、こういう区別は中国語にはないんでしょうか? あります、あります。中国語にはいろんな「ありがとう」があります。では読んでみてください。
目次
中国語の「ありがとう」のうち最も代表的なもの “谢谢”
中国語で「ありがとう」「ありがとうございます」に当たることばのうち、最も代表的なものは
です。
発音をカタカナ書きにすると「シエシエ」と母音のiがはっきり残ります。日本人は「シェイシェイ」と拗音(ようおん)のようになりがちなので気をつけましょう。
*拗音とは……「きゃ」とか「ひゃ」のように、かな2文字で表す音節のことです。
“谢谢”以外の中国語の「ありがとう」
“谢谢”と同じ意味の別の言い回し
“谢谢”と同じ意味の別の言い回しとしてはほかに以下のようなものがあります。
“谢谢”より敬意のある中国語の「ありがとうございます」
中国語で「ありがとうございます」は、
“谢谢您”は敬意を表す“您”が使われていますから、“谢谢你”より相手への敬意が深まります。
中国語で「ありがとうございました」(過去形のニュアンス)
中国語で「ありがとうございました」は、
“谢谢了”は「変化」を表す語気助詞“了”がありますから、「ありがとうございます」より「ありがとうございました」というニュアンスになります。
プレゼントなどに感謝する時の「ありがとう」
さて次は、おみやげなどをもらった時の感謝の表現です。
“谢谢”+目的語
何かをしてもらったり、プレゼントされたりした時は
“谢谢”の後ろに目的語を置いて
などと言います。
“谢谢”の後ろの目的語は複雑なフレーズでもOK
目的語が単純な名詞ではなく、[主語+述語+目的語]という主述フレーズであっても大丈夫です。
この文の構造は、“谢谢”+[主語(你)+動詞(送给)+間接目的語(我)+直接目的語(这么好的礼物)](あなたが私にこんなすてきなプレゼントを下さったことに感謝です)となっています。“送给”は二重目的語が取れる動詞で、後ろに間接目的語と直接目的語が来ています。
中国語で「ありがとう」と言われたときの返事の仕方
では“谢谢”など、中国語でありがとうと言われたらどう返事をしたらいいのでしょう。
「いえいえ」とか「とんでもありません」などのことばです。これは以下のようなことばを使います。
などと答えます。いずれも「どういたしまして」という意味です。
中国語で「どういたしまして」「いえいえ」などと言いたい場合の詳しい説明は、中国語で「どういたしまして」に書いてあります。
中国語で「本当にありがとうございます」――より深い感謝には
また感謝の思いがとても強い時の言い方には
などと言います。この程度副詞の
は など他の程度副詞に替えることはできません。中国語で「ご厚意に感激しております」――感激に近い深い感謝を表す時の「ありがとう」
中国語でとても深い感謝を表す時
などと言います。
は日本語の「感激」と異なり、厚意を受けた時の深い感謝の思いのある「感激」です。美しい景色を見た時などの「感激」つまり感謝のない感激には使えません。こちらの「感激」は を使います。日本と中国で異なる「ありがとう」の文化
以上、ありがとうなど感謝にかかわる表現は日本語と中国語でさほど違わないように見えますが、実は感謝の文化は日中でかなり異なります。まず「ありがとう」を言う回数が日本人は中国人よりきわめて多いのです。ちょっとしたことで「ありがとう」、友人の間はもちろん、家族の間でも「ありがとう」。これは中国人には基本ない習慣です。
中国人は基本的に身内には「ありがとう」を口にしない
中国人にとって挨拶とはある種の距離感なのです。距離のある人に「ありがたいなあ」「ありがたかったなあ」と心底思えるほど親切にしてもらって初めて出てくるのが“谢谢”です。共に助け合って当然の家族、親族、友人に“谢谢”は基本ありません。言ったら「?」、「コイツ変…」認定かも。
中国語の「ありがとう」は心から感謝した時だけ
また「ありがたいなあ」「ありがたかったなあ」と心底思えるほど親切にされて初めて出てくる“谢谢”を、ちょっとしたことで口癖のごとく使われても「?」です。“谢谢”の使い方としておかしいよ、と忠告される可能性も。
日本語の「ありがとう」は人としてのマナー
つまり日本語で「ありがとう」は人としてのマナーです。ちょっとしたことでも、親子でもありがとうと口にすることで、人のふるまいとして、生活のありようとして品位が上がるのです。というかそうでないと品位が下がるのです。なんか無教養の野蛮人という感じ。美しくないのです。
中国語の“谢谢”は感謝の意味をきちんと伝えることば
でも中国語の“谢谢”はマナー言語などではなく、実態のあることばです。意味がしっかりあるのです。「特別親切にしてもらえる関係などないあなたに、ここまでしていただくなんて何とまあありがたいことか。感謝、感謝です」という意味が入っているのです。どうです、ちょっとやそっとで“谢谢”は使えないでしょう。つまり中国語の“谢谢”はふるまいの美学としての言葉ではなく、心の底から感謝の意味を持つ、ある意味、人に捧げる礼なのです。
日中の誤解は「ありがとう」から始まる?
これで困るのがお互いの誤解です。
日本人が中国に行って中国人におみやげを渡しても、場合によるとありがとうがないということもあります。つまり友達なら言わないのです。もし家族を連れていって家族がこの場面を見たら憤慨するかもしれませんね。
またちょっとしたことではありがとうを言いませんから野蛮な国に来たなあと思うかもしれませんね。
中国人が日本人のありがとうに感じる違和感
逆に中国人は日本人からしょっちゅうありがとうと言われることに違和感を感じるかもしれません。そのありがとうはマナーであって、心の底から「ありがとう!」と思っているとは限りませんから、中国人はそれを察知して「日本人って口は礼儀正しいけど心は冷たい」と感じるかもしれません。いえ、感じる人は多いみたいです。「だからそれはマナーなんですよ。お腹の底からありがとうって思ってなくても、ちょっとだけありがとうでもそれを口にするのが日本人のマナーなんですってば」と説明しても、よおくわかってもらえるまでには時間がかかるかも。
口先礼儀の国と野蛮人の国?
この中国人による「日本=口先だけ礼儀の国」と日本人による「中国=野蛮な国」というイメージはうわべだけのつきあいではなかなか消えません。「日本人って礼儀正しいのは外側だけ。本心は冷酷なヤツラ」とか「中国人ってマナー意識ゼロ。アイツラどうしようもないよな」となりがちなんですよね。相手の国や民族を理解するには友情と深い洞察力が必要です。うん、異文化を観察するってなんか成長するんですよ。というか心のキャパシティーがだんだん広がっていくような気がします。
最近中国でも日本的なありがとうが増えてきた
ところが最近中国のテレビドラマを見ていると、日本的なありがとうがよく出てくるのです。つまりマナーとしての“谢谢”です。中国のテレビドラマは国民教育の一環としても用いられていますので(いわゆる「反日ドラマ」がその典型)海外に行っても恥ずかしくないよう中国人を教育しようとする意図があるのか、それとも仕事や留学、観光などで外国に行く中国人が増え、海外で感化されマナーとしての“谢谢”が増えてきているのか、今のところよくわかりません。
それでも中国人は家族間でありがとうは使わない
ただそうしたドラマでも家族間ではやはり使われませんし、友人間で使ったりすると「ありがとうなんて言わないでよ。水臭い」などとたしなめられる場面が出てきますので、「“谢谢”は近しい間では使わない」原則は依然として生きています。
飛行機の中の“谢谢”
中国の飛行機に乗ると、乗務員の説明などの最後に必ず“谢谢”が出てきます。英語、日本語、中国語の説明が続くと、日本語では最後に「ありがとうございます」をつけたりしませんが、英語なら「サンキュー」、中国語なら“谢谢”が必ず最後につきます。
これってアメリカ文化の影響?
中国人は最近(といってもこの十数年)ファーストネーム(つまり姓ではなく名前の方)にアメリカ人風の名前をつけ、互いにそうした名前を中国風発音で呼び合っていたりして(日本人からすると違和感を感じるんですが中国人にそうした感覚はないみたいです)、習慣の一部アメリカ化を感じることがあります。もっとも一般に若い人だけですが。飛行機の中などの最後の“谢谢”もそうしたアメリカ文化から、つまり「エチケットとしてのthank you」を真似るところから来ているように思います。
“谢谢”の使い方も変化していく?
とにかくいろいろなことがすごいスピードで変わっていっている中国なので、昔ながらの習慣もどこでどう変わっていくか目を離せません。皆さんも中国に行かれた時はじっくり観察してみてください。