五言絶句

五言絶句

五言絶句とは

五言ごごん絶句ぜっくとは漢詩の形式の一つで、1句に5語、全部で4句20語の最も短い詩形です。

元は絶句も律詩と呼ばれていました。

律詩の律は、法律や規律の律で、元々は「きまり」という意味です。つまり律詩は、音声上のきまりによって作られた詩ということになります。

きまりによって作られた詩は絶句、律詩ともにそうですから、最初は唐代に成立した近体詩全体、つまり絶句も律詩もともに律詩と呼ばれていましたが、その後全8句になる詩のみ「律詩」と言うようになりました。

それでは絶句はなぜ「絶句」というのか。これには諸説ありますが、長い詩から初めの4句を断ち切ったものだから、という説が一般的です。

五言絶句の「起承転結」

五言絶句は全部で4句、第1句は詠い起こし(起句)、第2句は前の句を受けてそこから発展させ(承句)、第3句は場面を転換し(転句)、第4句は全体を結んで終わらせます(結句)。これが起承転結で、五言絶句の漢詩は必ずこうした作りになっています。

押韻とは

漢詩、特に唐代以降の近体詩は1句2句4句で韻を踏みます(1句は踏まないことも)。これを押韻おういんと言います。「韻」とは発音した時耳に残る音の響きのことです。押韻は同じ響きを持つ語を句の終わりに置くことで、音声的な美しさを作るのです。

代表的な五言絶句の作品

『静夜詩』 李白

『静夜詩』の原文

床前看月光

疑是地上霜

挙頭望山月

低頭思故郷

『静夜詩』の書き下し文

床前しょうぜん月光を看る

疑うらくはれ地上の霜かと

こうべを挙げて山月を望み

首をれて故郷を思う

『静夜詩』の現代語訳

寝台の前で月の光を見る

地面に降りた霜のようだ

顔を挙げて山の上の月をながめ

頭を垂れて故郷を思う

『静夜詩』の解説

1句2句4句、光・霜・郷で韻を踏んでいます。日本語の漢字音では「コウ・ソウ・ゴウ」ですが、現代中国語ですと「グアン・シュアン・シアン」に近い音になります。

第1句で始まり、第2句でそれを受け、第3句で地上の月の光から山の上の月へと場面は変わります。そして結びの4句で作者の想いが月から心のうちの郷愁へと移ろって終わります。

起承転結で作られた李白の絶句です。李白は絶句を得意としました。

絶句は短いので余韻が大切、最後の句で余韻が響きます。

もう一つ、李白と並んで盛唐時代を代表する詩人、杜甫の『絶句』と題する詩を紹介しましょう。

『絶句』 杜甫

『絶句』の原文

江碧鳥愈白

山青花欲然

今春看又過

何日是帰年

『絶句』の書き下し文

こうみどりにして鳥いよいよ白く

山青くして花えんと欲す

今春すみす又過ぐ

いづれの日にかねんならん

『絶句』の現代語訳

川は青緑色、鳥はいっそう白く見える。

山は青々と、花は燃えるように赤い。

今年の春もみるみるまた過ぎてしまう。

いつになったら故郷に帰ることができるのだろう。

『絶句』の解説

2句4句、然・年で韻を踏んでいます。日本語の漢字音では「ゼン・ネン」ですが、現代中国語ですと「ラン・ニエン」に近い音になります。

第1句で始まり、第2句でそれを受け、第3句で美しい情景から時の動きへと視線や意識が変化し、第4句の望郷のため息のような表現で詩が終わります。

李白も杜甫も生涯の大半を放浪の中に過ごしました。二人の有名な絶句はいずれも景色を詠うことから始まり望郷の思いで閉じられています。