『桃夭』詩経

『桃夭』詩経

桃夭とうよう』とは、中国最古の詩集『詩経』に収められている詩です。詩経の代表的作品です。

ここでは『桃夭』の原文・書き下し文・現代語訳・解説・形式などを紹介します。

『桃夭』と詩経

詩経』とは中国最古の詩集です。BC12世紀~BC6世紀、約600年間の詩が305編集められています。孔子こうし(BC551~BC479)が整理してまとめたと言われ、ふうしょうの三つに分かれています。

「風」というのは黄河流域の15の国々の民謡を集めたものです。「雅」は「朝廷の音楽」、「頌」は「先祖をたたえる歌」という意味です。これらの詩・歌はすべて作者不詳で、名もなき人々によって歌われた素朴な歌謡です。

この中で『桃夭』は「風」に属する詩・歌です。

ではこの詩を「原文」「書き下し文」「解説」「現代語訳」で下に挙げます。

『桃夭』の原文

桃之夭夭

灼灼其華

之子于帰

宜其室家

桃之夭夭

有蕡其実

之子于帰

宜其家室

桃之夭夭

其葉蓁蓁

之子于帰

宜其家人

『桃夭』の書き下し文

もも夭夭ようようたる

灼灼しゃくしゃくたり其の華

の子とつ

其の室家しっかよろ

桃の夭夭たる

ふんたる有り其の実

之の子于き帰ぐ

其の家室に宜し

桃の夭夭たる

其の葉蓁蓁しんしんたり

之の子于き帰ぐ

其の家人によろ

『桃夭』の現代語訳

みずみずしい桃よ

花はなやかに

娘さんはお嫁に行く

きっと嫁ぎ先の良いお嫁さんになるだろう

みずみずしい桃よ

実はずっしりと

娘さんはお嫁に行く

きっと嫁ぎ先の良いお嫁さんになるだろう

みずみずしい桃よ

葉はふさふさと

娘さんはお嫁にいく

きっと嫁ぎ先の良いお嫁さんになるだろう

『桃夭』の解説

桃:桃は若く美しい花嫁のたとえ。また桃は古代から邪気を払う神木と見なされていた。呪力を持つ桃を詩に詠いこむことによって結婚を寿いでいる。

夭夭

夭夭:若々しい

灼灼

灼灼:はなやかだ

帰:嫁ぐ

室家

室家:嫁ぎ先

蕡:実がずっしりとふくらんでいるさま

蓁蓁

蓁蓁:葉が生き生きと伸びているさま

寿の詩

美しい花嫁の結婚を寿ことほぐ歌です。

桃の花も実も葉もこの花嫁さんの比喩ですが、お嫁にいく日も花色とりどりに、明るくおだやかな陽光に照らされ、喜びの笑顔に包まれている情景が浮かびます。

幸福感に満たされた寿ぎの歌です。

『桃夭』の形式・技法

『桃夭』の形式……四言詩(よんごんし・しごんし)。

『桃夭』の押韻:

「灼灼其」と「宜其室

「有蕡其」と「宜其家

「其葉蓁」と「宜其家

の赤文字のところで韻を踏んでいます。

室家と家室、家人…適当に言葉を入れ替えているのではなく、韻を踏むために上下を入れ替えたりしていて、今から三千年ほど前、すでにこうした韻の技法が意識されていたのですね。

また「桃」が「花嫁さん」の間接比喩として使われていますが、これを「きょう」と言います。

『桃夭』の関連ページ