怒髪天を衝く
「怒髪天を衝く」の由来
「怒髪天を衝く」は中国の戦国時代、趙の国の藺相如が、秦の王に激怒した出来事が元となってできた故事成語です。まずは年表と地図を見てみましょう。
「怒髪天を衝く」の故事の時代
「怒髪天を衝く」の故事の場所
「怒髪天を衝く」の故事
この話は「完璧」の項とまったく同じです。中国の戦国時代、当時の覇権国家・秦は弱小国・趙の王が和氏の璧という名のすばらしい玉を手に入れたと聞き、それを横取りしようとします。一応「うちの城(中国語では城壁に囲まれた都市のこと)15個分あげるから」なんて調子のいいことを言うのですが、そんなものくれっこないことはわかりきったこと。ただこの玉をやらなければ趙は秦に滅ぼされてしまうかもしれません。どうしたものか……と趙王は悩みます。そこで藺相如という、趙の大臣の家でごろごろしていた居候(「食客」と呼ばれます。知恵を出して雇い主の恩に報いるコンサルタントのような存在で、戦国時代から現れます)が趙王に会って策を披露し、その案が受け入れられて彼はひとり秦に乗り込みます。案の定、秦は城を渡す気などさらさらなく、周りにはべる女たちに見せびらかせて和氏の璧を横取りする気まんまん。そこで藺相如は髪の毛を逆立ててこう怒鳴るのです。「おのれ秦王め。やっぱり玉をただで自分のものにする気だな。だったら己の頭ともども、この玉をこなごなにしてやるから見ておけ!」この気迫に驚いた秦王はこれを止め、藺相如の話に耳を傾けます。この時の藺相如の憤怒の様子から生まれた言葉が「怒髪天を衝く」です。
人間、怒ると髪の毛が立つのでしょうか? 顔を赤くして怒る、というのはわかりますが、髪の毛が立つというのはよくわかりません。頭の血管が怒張した感じをこう例えたのかもしれません。藺相如ってきっと血の気の多い男なんでしょう。わかりにくいので由来の物語からはカットしてしまいましたが、この話の中で彼はものごとの道義性とそれに対する人々の反応ということにまで考えを巡らせています。緻密な頭脳とともに正義感が強かったことがしのばれます。趙の王様が大事に大事にしていた和氏の璧が、秦王の取り巻きの女たちの嬌声の中むざむざとブン捕られそうになった時、彼は用意していた策を冷静に実行に移しながらも本気で怒ったんでしょうね。強大な国家の理不尽な王に対して、弱小国の大臣宅で食わせてもらっている一居候がここまで堂々と立ち向かう…たいしたもんです。
「怒髪天を衝く」の関連語
「完璧」という言葉もこの話が元となってできた故事成語です。
また、「和氏の璧」にも発見されたときの逸話があります。
「怒髪天を衝く」と同じく戦国時代の秦にまつわる故事成語としては「傍若無人」「合従連衡」「一挙両得」「遠交近攻」などがあります。
「怒髪天を衝く」の中国語
中国語 | 怒发冲天 |
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ピンイン | nù fā chōng tiān |
音声 | |
意味 | 怒りのあまり髪の毛が逆立っていること。また激しい憤怒やその形相を言う。 |
この故事成語、中国語では「怒髪冠を衝く」という言い方でも知られています。中国語では“怒发冲冠”と言います。