矛盾
※『韓非子』とは:中国戦国時代(B.C.403~B.C.221)の法家、韓非の著書。わかりやすい説話から教訓を引き、権力の扱い方とその保持について説いた書。全55編。三国演義で有名な諸葛孔明は劉備の遺児劉禅にこの本を進呈している。
※韓非とは:戦国時代に生まれ、性悪説を説く儒家の荀子に学んだと言われる。間違った行いを礼による徳化で矯正しようとする荀子に対し、法によって抑えるべきだと主張した。
「矛盾」の由来
「矛盾」の故事は中国の戦国時代に書かれた『韓非子』に由来します。まずは当時の年表と歴史地図を見てみましょう。
「矛盾」の故事の時代
「矛盾」の故事の場所
「矛盾」の故事
中学校の国語の教科書にも載っている有名な話ですので、原文・書き下し文・現代語訳で紹介します。
「矛盾」の故事の原文
楚人有鬻盾与矛者,誉之曰:“吾盾之坚,物莫能陷也。”又誉其矛曰:“吾矛之利,于物无不陷也。”或曰:“以子之矛攻子之盾,何如?”其人弗能应也。
「矛盾」の故事の書き下し文
楚人に楯と矛を鬻ぐ者あり。これを誉めて曰く
吾楯の堅きこと、よく陥す者なきなりと。
またその矛を誉めて曰く
吾矛の利なること、物において陥さざるなきなりと。
ある人曰く
子の矛を以って、子の盾を陥さば、如何と。
その人、応うる能わず。
「矛盾」の故事の現代語訳
楚の国に盾と矛を売る人がいました。自分が売る盾を自慢して「私のこの盾の堅固なことときたら、どんなに鋭利な刃物でも突き通すことはできません。また自分が売る矛を自慢して「私のこの矛の鋭利なことと言ったらどんな堅固なものでも貫き通してしまいます」と言いました。それを聞いてある人が「ではあなたの矛であなたの盾を突いたらどうなりますか?」と尋ねると、その人は何も言うことができなくなってしまいました。
韓非はこの話で何を言いたかったのかというと、当時の儒家の主張の間違いを指摘するのにこのたとえ話を使ったのです。
儒家は尭と舜という古代の伝説上の天子をともに聖人として称え、「尭が天子の位にあった時、舜は各地に出かけて自ら労働をし、人々の争いをなくした。これこそ聖人の徳の力である」と主張するのですが、それに対し韓非は「聖人なら天下は治まっているはずで舜が出ていく必要はない。尭を聖人とするのはまちがいだ」とし、この矛盾のたとえ話をして「尭舜を聖人としてたたえるのは矛盾である」と主張したのでした。
「矛盾」の関連語
「矛盾」と同じく『韓非子』が元となってできた故事成語には、「逆鱗」などがあります。
「矛盾」の中国語
中国語 | 矛盾 |
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ピンイン | máodùn |
音声 | |
意味 | 意味は日本語と同じで、つじつまが合わないこと。 |
中国語では成語でも慣用表現でもありません。普通名詞「矛盾」、動詞「矛盾する・対立する」、形容詞「矛盾している」として使われています。