逆鱗に触れる
※『韓非子』とは:中国戦国時代(B.C.403~B.C.221)の法家、韓非の著書。わかりやすい説話から教訓を引き、権力の扱い方とその保持について説いた書。全55編。三国演義で有名な諸葛孔明は劉備の遺児劉禅にこの本を進呈している。
※韓非とは:戦国時代に生まれ、性悪説を説く儒家の荀子に学んだと言われる。間違った行いを礼による徳化で矯正しようとする荀子に対し、法によって抑えるべきだと主張した。
「逆鱗に触れる」の意味は上記の通りですが、ここに出てくる「逆鱗」は龍の喉元に生えた1枚だけ逆さになっている鱗のことです。由来となった話を以下に紹介します。
「逆鱗」の由来
「逆鱗」の故事は、中国の戦国時代に書かれた『韓非子』の中に出てきます。まずは年表と歴史地図を紹介します。
「逆鱗」の故事の時代
「逆鱗」の故事の場所
「逆鱗」の故事
「逆鱗」の故事について原文・書き下し文・現代語訳で紹介します。
「逆鱗」の原文
夫龍之爲蟲也 柔可狎而騎也 然其喉下有逆鱗徑尺 若人有嬰之者 則必殺人 人主亦有 逆鱗 說者能無嬰人主之逆鱗 則幾矣
「逆鱗」の書き下し文
夫れ龍の虫為る也、 柔なるときは狎れて騎る可き也。 然れども其の喉下に逆鱗の径尺有 り、若し人之に嬰るる者有らば、則ち必ず人を殺す。人主も亦た逆鱗有り。說者能く人主の逆鱗に嬰るること無くんば、則ち幾かからん。
「逆鱗」の現代語訳
龍という生き物はおだやかな時は人になじんでその背にまたがることさえできます。ところが龍の喉元には1尺ほど鱗が逆さに生えたところがり、もしこれに触ったりすると殺されてしまいます。君主と言う存在もこれに似ていてやはり逆鱗があります。君主を説得しようとする者がもしこの逆鱗に触れずに済んだならば、その説得がうまくいくのはまもなくのことでしょう。
「逆鱗に触れる」(激怒させる)というこの故事成語、激怒させてしまう相手は必ず目上の人です。同輩、または目下の人を怒らせてもこの言葉は使えません。もともとが「龍」です。中国で「龍」は皇帝のことも意味します。“龙颜 lóngyán”(龍顔)、“龙袍 lóngpáo”(龍袍)という言葉はそれぞれ「皇帝の顔」「皇帝の衣装」という意味です。やはりこの原義が言葉の中に残っているのでしょう。
(リンク先のページで、『龍』がどのように成立していったのかなどを紹介しています)
「逆鱗」の関連語
「逆鱗」と同じく『韓非子』が元となってできた故事成語には、「矛盾」などがあります。
「逆鱗」の中国語
中国語の口語表現の中に「逆鱗に触れる」という言い方はありません。「逆鱗」は“逆鳞niìlín” と言いますが、口語表現では“倒生的鱼鳞dǎo shēng de yúlín”(さかさまに生えた魚のうろこ)と言わないと通じにくいでしょう。