牛耳る
※春秋左氏伝とは:歴史書『春秋』の代表的な注釈書の一つ。孔子による編と伝えられている。B.C.700~B.C.450頃の歴史が描かれている。『左伝』『春秋左氏』『左氏伝』ともいう。他の注釈書には『春秋公羊伝』『春秋穀梁伝』がある。
※哀公とは:哀公(?~B.C.467)。魯の第27代君主。
「牛耳る」の由来
「牛耳る」は春秋時代の覇権を争う諸侯たちの習慣が元となってできた故事成語です。まずはこの故事の年表と地図から見ていきましょう。
「牛耳る」の故事の時代
「牛耳る」の故事の場所
「牛耳る」の故事
「牛耳る」、正しくは「牛耳を執る」と言います。
集団や組織の中で人を動かしたり支配したりすることですが、なぜ牛の耳と言うのでしょうか?
これは古代中国のある習慣から来た言葉なのです。
古代中国では諸侯が集まって同盟の約束を結ぶ時、牛の耳を切り落とし順番にその血をすするという儀式を行いました。血をすする順番は地位の高い人からです。すると最初に血をすするのは盟主、つまりその集まりのリーダーであって、この人が最初に牛の耳を手に取りました。これが「牛耳を執る」ということのもともとの意味です。
「牛耳を執る」、「牛耳る」ことは諸侯たちの夢でした。誰もがこの集まりで最初に牛耳を手にとりたい、その場の一番になりたがりました。こうしてこの場はときに争いの場にもなりました。
牛耳を取りあった争いとしては、呉王夫差と晋の定公の争いが有名です。まずは夫差が「我が呉は周王室の兄に当たる家系である」と名乗りをあげると、定公が「いやいや、周の王室につながるのはこの晋とて同じこと。しかもこちらは代々覇者の家柄」と反撃します。この勝負最後は定公が勝ちます。
覇権を取り合う争いは二千年以上の昔からあった、というより今も変わらずあるわけですね。人間の本質は変わっていないということでしょう。
「牛耳る」の関連語
「牛耳る」の話に出てくる呉に関する故事成語には「呉越同舟」「臥薪嘗胆」などがあります。
「牛耳る」の典拠『春秋左氏伝』は孔子による編と伝えられています。「孔子の生涯と思想・名言集」のページでは孔子について詳しく紹介しています。
「牛耳る」の中国語
中国語 | 执牛耳 |
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ピンイン | zhí niú'ěr |
音声 | |
意味 | ナンバーワンになること。 |
日本語の「牛耳る」は必ずしも良い意味ではありません。むしろ身勝手というニュアンスがあります。中国語にはそうしたマイナスの意味はありません。これは「トップに立つ」という意味で、むしろほめ言葉です。同じ話を起源にした同じ言葉の微妙な違いからは、トップを目指したがる中国文化と、協調性を重んじる日本文化の違いが見えてきます。