大学【儒教の経典『大学』の成立過程と内容の解説】

大学

ここで取り上げる『大学』とは学校としての大学のことではなく、儒教の主要な経典・四書五経のうちの1冊です。「大学」とは「成人の学問」という意味です。

『大学』はもともと『礼記』(らいき)49篇中第42篇のことでした。宋代以降、同じく『礼記』の1篇だった『中庸』とともに四書の1つとして尊重されるようになりました。

『大学』とは

書名としての『大学』は儒教の主な経典である四書五経のうちの1冊です。

四書五経には他に『中庸』『論語』『孟子』(以上「四書」)と『易経(周易)』、『書経(尚書)』、『詩経(毛詩)』、『春秋』、『礼記(儀礼)』があります。

『論語』や『孟子』『詩経』は高校で漢文を学んだ人にはお馴染みですね。そうした経典の1つが『大学』です。

『大学』はもともと『礼記』の中の1篇でした。宋代に入って、同じく『礼記』の1篇であった『中庸』とともに重んじられるようになりました。

南宋の儒学者である朱熹が「四書」の4経典に注釈をつけた『四書集注』を著して以後、経典の中でも高い地位を持つようになりました。

『大学』の内容

『大学』の本文は元『礼記』の1篇ですから、全2000字足らずで非常に短いものです。

「大学」とはすなわち「成人の学問」、『大学』の主旨は、「成人の学問は三綱領、八条目にある」ということです。

「三綱領」とは

三綱領とは、明徳を明らかにする、民に親しむ、至善に止まるということ。

つまり「成人の学問とは、そのすぐれた徳を世に明らかにすることであり、人民に親しみ、愛することであり、至善の境地にいることである」という意味です。

「八条目」とは

「八条目」は上記目標を身につけるための8つの具体的なカリキュラムです。

1.物を格(ただ)す。

2.知を致す。

3.意を誠にする。

4.心をただす。

5.身を修める。

6.家を斉(ととの)える。

7.国を治める。

8.天下を平らかにする。

つまり1.対象を正しく把握し、2.認識をきわめ、3.思いを誠実にし、4、心を正しくし、5.自分の身を修め、6.家庭をととのえ、7.領地を治め、8.世の中を平和にする、という意味です。

「大学…成人の学問」の目標とは、立派な天子、王となることで、孔子が述べた「修己治人」…己を修め人を治める…をより具体的にしたものです。

『大学』の成り立ち

朱熹による『大学』の注釈である『大学章句』の巻首に、「大学は孔子の遺書にして、初学徳に入るの門なり。今において、古人学をなす次第を見るべきはひとりこの篇の存するに頼れり。論孟これに次ぐ」とあります。

孔子の遺書的な1篇であり、『論語』や『孟子』の上に来ると朱熹は言っています。

『大学』はもともと『礼記』の1篇(第42篇)ですが、作者不明であり、漢代や唐代では重要なものとは考えられていませんでした。

これに初めて注目したのは唐代中期の文人である韓愈だといわれています。宋代の二程子がこれを孔子の遺書であるとして『礼記』から独立させました。

二程子の主張を受け継いだ朱熹は『大学章句』を著し、その中で『大学』を経一章205字と伝十章1546字としました。

そして経一章については、孔子の言葉を門人の曾子(そうし)が文章化したものであり、伝十章は、経を曾子の門人たちが解釈したものであるとして、経、伝それぞれに注釈をつけました。

朱熹はさらに『論語』『大学』『中庸』『孟子』は、孔子、曾子、子思、孟子の教えを見ることができ、儒教の正統な思想がわかる貴重な書物であるとしました。

朱熹の選んだ四書は、やがて元の仁宗から科挙の必須科目となり、清末に至るまで中国の教養人に広く学ばれるようになりました。

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